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映画も小説も、新境地開く 前島賢

新海誠著『小説 君の名は。』(角川文庫・605円)

新海誠 著
『小説 君の名は。』
(角川文庫・605円)

 東京の男子高校生・立花瀧は見知らぬ畳部屋で女の子として目を覚ます夢を見る。一方、飛驒の寒村に神社の娘として生まれ、「来世は東京のイケメン男子にしてくださーい」と願う女子高校生・宮水三葉が見たのは、東京都心で暮らす男の子になってカフェを巡りバイトして……と自分の願望が結実したような夢。けれどふたりは気づく。自分たちは夢を見ているのでなく、現実にお互いの心と体が入れ替わってしまっていると。東京の都心と飛驒の山奥で、奇妙な交流が始まる。

 『小説 君の名は。』は、8月26日に公開されるアニメ映画『君の名は。』を監督みずからが小説化した一冊だ。アニメ『ほしのこえ』や『秒速5センチメートル』で有名なアニメ作家・新海誠は自作のノベライズにおいて小説家としても優れた才能を見せている。早熟な小学生の少年に思春期の女子高生、そして人生の岐路に立つ青年の三部からなる原作映画を、視点ごとに文体を使い分け見事に小説化した『小説 秒速5センチメートル』(角川文庫・562円)や、雨の日の新宿御苑での、男子高校生と社会人女性のふたりだけの交流を描いた中編アニメ『言の葉の庭』を、多様な人物の視点が交差する群像劇に拡張した『小説 言の葉の庭』(角川文庫・734円)などを読むと、もし彼が小説家として世に出ていたとしても、きっと広く知られた存在になっていただろうと確信できる。

 そんな彼の最新作が本書。すれ違う男女の切なさや胸を打つモノローグ、情景描写の美しさといった特徴は本作にも健在。だがそれ以上に印象的なのは、入れ替わった男女のトラブルをコミカルに描く様や、受け手を驚かせる巧みな伏線、爽快な物語など、これまでにない魅力が生まれている点だ。映画のプロデューサー・川村元気が寄せた解説によればこれまでの「ベスト盤」を目指したとのことだが、本作はむしろ新海誠の新境地と言うほうがふさわしい。夏にふさわしい爽やかな青春エンターテインメントだ。

 ファンはひとまず、映画の公開を待ってから読んで頂きたいが、映画館に行く時間がとれないという方は、とにかく本書だけでも手にとってほしいと願う。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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