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情熱と友情の再生、切実に 前島賢

蒼山サグ著『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』(電撃文庫・616円)

蒼山サグ著
『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』
(電撃文庫 616円)

 「水商売の子」とバカにされ地元の野球チームを飛び出した小学生、楠田幸斗(ゆきと)は、「魔球」を投げる転校生・佐原剣(つるぎ)と出会い、はぐれ者を集めた「常滑(とこなめ)スライダーズ」を結成する。しかしチームはまともな試合もできないまま剣の転校で消滅。夢を失った幸斗は、草野球で青春を浪費する高校生活を送っていた。だが、そんな幸斗のもとに、かつてのエースが帰ってくる……。

 『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』(電撃文庫・616円)の著者、蒼山(あおやま)サグは、女子小学生のミニバスケチームをコーチすることになった高校生を描く『ロウきゅーぶ!』(同・全15巻・594~680円)でデビュー。同作はアニメ化もされ「まったく、小学生は最高だぜ!!」の名言を生んだ。その最新作は表紙に小学生どころか女の子さえ登場しない野球小説。「最高」の小学生抜きで大丈夫? と不安に思ったが、同時に著者は、夢を失った人間の再起を描き続けてきた作家でもある。突然のチーム解散ですべてが終わった後、お互いを避け、あるいは憎むようにすらなっていた常滑スライダーズの面々が、再び情熱と友情を取り戻し、もう一度、野球を始めるまでが、これまで以上の切実さで語られる。

 加えて試合描写の方も小説ならではの戦略性を重視したもの。キャッチャーの幸斗は何を投げても変化球になってしまう超クセモノのエース・剣を導き打者を攻略していく。ぜひ、このバッテリーには甲子園まで行ってほしい。

 そして本作にて小説で読む野球の楽しさを知った読者はぜひ須賀しのぶ『雲は湧き、光あふれて』(集英社オレンジ文庫・583円)、および先月発売の続編『エースナンバー』(同・583円)も手にとってほしい。少女小説「流血女神伝」シリーズ(『帝国の娘』前後編は角川文庫・596~720円)や大河ロマン『芙蓉(ふよう)千里』(同・全4巻・679~885円)で知られる作家の連作短編集。高校生だけでなく、彼らを指導する教師や取材に訪れる記者、そして戦時下の球児たちと、様々な人々の甲子園にかけた想(おも)いを描き出す。

 今年の夏の終わりはぜひ、熱い青春野球小説で締めて頂きたい。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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