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エンタメ for around 20

 

心えぐられる青春の醜態 前島賢

秀章著『サークルクラッシャーのあの娘、ぼくが既読スルー決めたらどんな顔するだろう』(角川スニーカー文庫・648円)

秀章著
『サークルクラッシャーのあの娘、
ぼくが既読スルー決めたら
どんな顔するだろう』
(角川スニーカー文庫 648円)

 純真無垢(むく)で(時々素直じゃないけれど)主人公を一途に思い続けてくれる女の子……というのがありがちと言われようが、愛されるヒロインというものだろう。けれども秀章(ひであき)『サークルクラッシャーのあの娘、ぼくが既読スルー決めたらどんな顔するだろう』が描くのは、そのお約束を完全に無視したヒロインと、それに振り回される男たちだ。

 冒険者たちの集団=旅団(サークル)が隠された財宝をめぐり鎬(しのぎ)を削る世界。達人ばかりが集まった"軍資に一番近い旅団"のユーリは、冒険の最中、記憶喪失の美少女・クリスティーナを助け、そのままいい雰囲気に。けれども彼女は、自分に好意を向けてくる相手なら誰でも好きになってしまうという困った性格の持ち主で、旅団の男たち全員と関係を結んでしまっていた。仲間たちは彼女をかけて争い、サークルは崩壊の危機に陥る……。

 さえない少年がギターを武器に学園に反逆する『脱兎リベンジ』(小学館ガガガ文庫、637円)など若さに任せ突き進む若者を描き続けてきた著者の秀章。そんな彼が青春の爽やかさではなく苦さを描くことに全力を注いでしまった新作が本作だ。それもほろ苦いなんてレベルではなく、中盤以降に展開される女の子の取り合いはページをめくるのも辛(つら)くなるほど。しかも、その醜態は実に等身大で、人によっては「これ、俺(たち)のことじゃないか」と感じてしまうはず。人の心のデリケートな部分を容赦なくえぐる、要注意な小説だ。

 異色のヒロインを描いたライトノベルと言えば、もう一冊、白都くろの『ぼくたちが本当にシタかったこと』(同・640円)も紹介したい。こちらの主人公は成人向けコンテンツの制作者を育成する専門学校の生徒。同級生には、そうした作品の女優を志願する女の子もいる。そんな環境で彼は、周囲の生徒にアダルト業界を志した理由をインタビューしていくのだが、魅力的なヒロインたちの将来を思うと、なんとも落ち着かなくなってしまう。

 胃が痛くなったり心がモヤモヤしたりと、けして万人に薦められない二冊だが、けれども、間違いなく他にない読後感を与えてくれる。興味があればぜひ、手にとって頂きたい。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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