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怪物ヒロイン、アリかも 前島賢

芝村裕吏著『黒剣のクロニカ』01(星海社FICTIONS・1,404円)

芝村裕吏著
『黒剣のクロニカ』01
(星海社FICTIONS・1,404円)

 半人半蛇ラミアや女面鳥身のハーピーなど、女性の怪物というのは意外と多く、ゲームにもよくモンスターとして登場する。しかし近年、そんな人外の怪物たちをヒロインに据えた作品が静かにブームになっている。たとえばコミックでは、ラミアをヒロインに据え、アニメ化もされたオカヤド『モンスター娘のいる日常』(リュウコミックス)や村山慶『セントールの悩み』(同)、ペトス『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』(ヤンマガKCスペシャル)など。そしてこの度、小説から登場した新たな人外ヒロインものが、芝村裕吏の戦記ファンタジー『黒剣(くろがね)のクロニカ』だ。

 貴族と奴隷の間に生まれた黒剣家の三男フランは、その兄・トウメスが隣国の美女を略奪しようと戦争に訴えたことで、実家と決別。実の兄との戦いを選ぶ。だが本作のメインヒロインは、戦争の発端となった黒髪清楚(せいそ)な小百合家の美少女・オルドネーでなく、その姉、ケンタウロスのイルケなのだ。評者も最初は戸惑ったのだが、後天的に半人半馬になってしまった彼女が、それでも人間との結婚を夢見るいじらしい姿や、焼き餅を焼いて後ろ脚で蹴りを入れてくる様を読んでいると、次第に「馬もアリかも」と思えてきた。読み手を「特殊な趣味」に開眼させようとする恐ろしい小説だ。

 もちろんケンタウロス娘とのラブコメだけでなく、戦記小説としても本格派。舞台はアトランティス大陸の沈没後という時代の、古代ギリシャに似た都市国家群。武器や防具どころか服も十分なものがない時代の、しかも民主制を政体とする都市国家同士の争いという、一風変わった戦争模様が繰り広げられる。

 著者の芝村は「高機動幻想ガンパレード・マーチ」など個性的な作風で知られるゲームデザイナーで、近年は作家としても活躍中。小説の代表作に元ニートの青年が少年兵を率いて各国を転戦することになる軍事アクション「マージナル・オペレーション」シリーズ(星海社FICTIONS)があり、続編となる『マージナル・オペレーション改』(同・1350円)が本書と同時に刊行された。奇抜な設定で読者の心を見事に 摑(つか)んでいくその手腕にぜひ、触れてほしい。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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