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宇宙めざすふたり、切実 前島賢

牧野圭祐著『月とライカと吸血姫』(小学館ガガガ文庫・660円)

牧野圭祐著
『月とライカと吸血姫』
(小学館ガガガ文庫・660円)

 今月15日に行われた宇宙航空研究開発機構(JAXA)による世界最小級ロケットSS―520―4号の打ち上げ実験は、残念ながら失敗という結果となったが、ぜひとも次の挑戦につなげてほしいと願っている。ところで、宇宙開発という題材は、創作でも多くの傑作を生みだしてきた。ライトノベルも例外ではなく、野尻抱介『ロケットガール』(ハヤカワ文庫JA、初出は富士見ファンタジア文庫)や秋山瑞人『猫の地球儀』(電撃文庫)などの名作がある。そんな流れに連なる新作ライトノベルが、人気ゲーム『ペルソナ5』などのシナリオに携わった牧野圭祐の『月とライカと吸血姫(ノスフェラトゥ)』だ。

 ライカと言えば、ソ連のスプートニク2号で宇宙に行った犬の名として有名。けれども本書が描くのは宇宙犬ならぬ宇宙吸血鬼の物語である。

 舞台は、共和国と連合王国という大国が、私たちの歴史とよく似た宇宙開発競争を繰り広げる世界。共和国の宇宙飛行士候補生の青年レフは、ある日突然、吸血鬼の少女イリナの監視と訓練を命じられる。史上初の有人宇宙飛行にあと一歩と迫った共和国だが、宇宙で人間が生存できる保証はどこにもない。そこで彼らは、人間そっくりだが人間ではない存在、つまり吸血鬼を実験体として宇宙へ送ることを決定したのだ。

 実験動物とその監視者として始まったイリナとレフの関係。けれども、厳しい訓練に明け暮れるなかで、その距離を徐々に縮めていく。人間として扱われず、あらかじめ歴史から抹消されることが定められた少女。密告と権力争いが渦巻く全体主義国家のなかであえぐ青年。その環境は理不尽そのものだが、だからこそ、それでもなお宇宙を目指そうとするふたりの切実な思いが読者の胸を打つ。吸血鬼とのボーイミーツガールというファンタジー要素と、前人未到の世界を目指すSF要素を巧みに融合させて描く、直球の宇宙開発小説だ。

 ソ連の打ち上げた宇宙犬のなかには、その後、産んだ子どもが米国に渡るなどしたものもいる。はたして本書の宇宙吸血鬼はどうなるだろう?

 もし続編があるのなら、イリナとレフのふたりには、ぜひとも月まで到達してほしい。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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