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差別の極みの中で輝くもの 前島賢

安里アサト著『86―エイティシックス―』(電撃文庫・680円)

安里アサト著
『86―エイティシックス―』
(電撃文庫・680円)

 敵対する帝国が開発した無人戦闘機械《レギオン》の侵略にさらされた共和国は、これに対応すべく自分たちも無人機《ジャガーノート》を開発。表向きは無人機と無人機による人の死なない戦争が続いていた。だが、実のところ《ジャガーノート》の正体は「乗っている者が人間と見なされなければ無人」という詭弁(きべん)でもって生み出された「有人の無人機」だった。全85区からなる共和国の外、存在しないはずの86区では、肌の色の違いによって「人間ではない」とされた少年少女が、ろくな支援も得られないままに命を散らしていた……。

 第23回電撃小説大賞を受賞した安里(あさと)アサト『86―エイティシックス―』は、その86区の最も危険な戦場で、最精鋭を率いて戦う兵士アンダーテイカーと、そんな彼らを安全な後方から指揮することとなった少女レーナの交流を描く軍事SFだ。

 人種差別のもとで戦うことを余儀なくされた兵士と言えば、史実においては第2次世界大戦中のアメリカ合衆国における日系人部隊442連隊戦闘団などがある。こちらをモチーフとしたとおぼしき作品には、祖国を失った日本人がヨーロッパで捨て駒として戦わされるアニメ『コードギアス 亡国のアキト』などがあるが、そうした歴史や先行作を知っていても、本作の登場人物の境遇は胸が痛む。

 はなから人間として扱われず、栄光どころか墓標さえも与えられない86の兵士たち。人種差別を是としないレーナは、そんな彼らに必死で寄り添おうとするが、かえって両者のどうすることもできない溝と、無自覚なままに抱えていた彼らへの差別意識を突きつけられることになる。

 けれどもそんな理不尽のきわみのような境遇のなかで、ひとりの兵士は語る。「クズにクズな真似(まね)をされたからって、同じ真似で返したら同じクズだ」。どんな差別を受けようとも、自分たちは意地でも差別する側にはならない、という彼らの姿は、人間の悪意と負の側面を凝縮したような作品世界だからこそ、ひときわ輝いて見える。

 この物語に、はたして救いはあるのかどうか……それはぜひ、実際に手にとって確かめて頂きたい。

(ライター)


 ▼プロフィール
 まえじま・さとし  82年生まれ。『セカイ系とは何か』


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