どくしょ応援団

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オーサー・ビジット

オーサー・ビジット校外編

◆言葉の力あきらめない 小川洋子さん@福岡市・文化芸術情報館

参加者の意見にうなずく小川洋子さん(中央)

 「中高生のための読書講座 オーサー・ビジット校外編」(主催・朝日新聞社、出版文化産業振興財団)の第6回が、『博士の愛した数式』『ミーナの行進』などで人気の作家、小川洋子さんを迎え、福岡市の文化芸術情報館・カフェアートリエで開催されました。福岡をはじめ、長崎、佐賀など九州各地から集まった中高生ら30人は六つの班に分かれ、小川作品の感想や意見を披露。本好き同士で情報交換をしたり、緊張しながらも小川さんに質問したりと、3時間の講座を満喫しました。

 「ルートくんって、できすぎてない?」

 ある班ではこんな話題で持ち切りに。事故の後遺症で80分しか記憶がもたない元数学者の「博士」と、その「家政婦」と彼女の10歳の息子「ルート」の小さな驚きと喜びにあふれた温かな日々を描いた『博士の愛した数式』。翌日にはまた初対面から始まるという奇妙な関係ながら、ルートは博士が傷ついたり混乱したりしないように、ときに母を諭すほど優しく気を配る。そんな彼が「できすぎている」というのだ。

 テーブルを回っていた小川さんは「やっぱり? 私はそんなつもりで書いたわけじゃないんだけど、若い読者ほど『ルートが立派だ』って言うの」と少し驚いた様子。「変な人に対して感じてしまう戸惑いや偏見が、ルートくんにはないのが不思議」。女子高生の率直な感想を耳にすると、「私は女の子特有の意地悪な部分がわかる分、少年にはこうあってほしいっていう理想を描いちゃったのかも」とつぶやいた。そんなやりとりを見ていた男子が「同じ少年としても、ルートは今のオレより全然立派です!」と真剣に告白すると、小川さんや女子たちは思わず噴き出してしまった。

 『博士の――』をはじめ、小川作品には登場人物に具体的な名前がないことが多い。後半のトークコーナーでは、その点についての質問が飛び出した。

 「名前をつけることで余計なイメージを植え付けてしまうこともある」と小川さん。「舞台は日本でもないし、もしかしたら地球でもないのかも。私の中にある鮮明な世界を小説に正確に表現するには名前がないほうがよかったりするんです」と説明する。しかし「実は、名前をつけるのが苦手っていうのもあるんだけど……」と付け加えると、会場は笑いに包まれた。

 「どうすれば人に共感してもらえる文章が書けるか」という質問も。そもそも言葉は心の中を読み取られないための道具として発達したという一説に触れた上で、小川さんはこう続けた。「だから本来、心を表現するのに言葉は不自由だけれど、それを打ち破るのもまた言葉の力。たとえば親に『うるせー』と反抗するのは簡単だけど、何が不満かという本当の気持ちはそんなひと言では伝わらない。心を伝えて理解してもらうためには、言葉の力をあきらめず、執念深く、そして真心をこめて扱わなければ。私はそんな思いで言葉に向き合っています」

 大好きな作家の宝物のような言葉の数々に、中高生らは熱いまなざしで聴き入っていた。

 (文・中津海麻子 写真・御堂義乗)

因幡真奈美さん(高1)

 前半の読書会では、小川さんの作品に対して自分とは違う意見がたくさん聞けて、新鮮でした

小林武寛くん(中2)

 『小説を書くというのは死者と語らうこと』という小川さんの話に驚き、作家ってすごいなぁと感動しました

栗原弘美さん(高1)

 言葉ひとつを伝えることの難しさを語ったお話が心に残りました。私ももっと根気強く言葉に向き合っていきたい

小川洋子さんの著書紹介
『博士の愛した数式』
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『ミーナの行進』
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『原稿零枚日記』
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