どくしょ応援団

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オーサー・ビジット

オーサー・ビジット校外編

◆小説と実人生は地続き 道尾秀介さん@千代田区立日比谷図書文化館(東京)

参加者の質問に答える道尾さん

 『水の柩』は、「普通」が退屈だと嘆く中学生の逸夫が、親が離婚し、学校ではいじめを受け、「普通」に憧れる級友の敦子に、ある頼みごとをされることから物語が動き始める。

 「『普通』って何?」。高校生の班ではそんな議論が起こっていた。「うちは農家。夏は休み返上で家族総出で果物を売ってる」。ある女子の発言に「へえ」「すごーい」と声が上がる。「みんなから見たら普通じゃないかもしれないけど、私にはそれが普通。普通の基準とか価値観って、人それぞれなんだと思う」。別の女子は「少し視点を変えてみたら、普通の中にも発見や驚きがあるはず」。本の感想を語り合うだけが読書会ではない。同世代の思いや戸惑いを共有する場でもあるのだ。

 読書会の終盤、道尾さんがマイクを握った。「最後に逸夫が見た『光』は何だったのか。実は書いた僕自身よくわからなくてもどかしい。みんなの意見を聞かせて」


 物語の最後、逸夫は、晴れた空から降る雨「天泣(てんきゅう)」が降り注ぐ中、「何か小さなものが光を振りまきながら弾(はじ)け飛んでいくような感覚」を覚える。ある班はこの場面を、紙の中央に黄色の線を引き、左右に人を描いて、「真ん中の線は逸夫が敦子との間に感じていた壁。敦子みたいに自分も輝きたいという気持ちが光だったのかも」と解釈した。道尾さんは「なるほど」とうなずきながら、「最後に逸夫は壁をぶち破り、そのかけらが光として見えたのかもね」。

 宿題だった「登場人物への手紙」も披露された。「逸夫へ。私も自分や周りがつまらないって思うことがある。『事実は小説より奇なり』っていうけど、絶対にうそ」という手紙に、「僕はそうは思わない」と道尾さん。「事実のほうがおもしろいからこそ、それを越えるものを作ってやろうと書き手はかき立てられ、素晴らしい作品が生まれる」とし、「『事実は小説より奇なり』がわかる日が必ずくる。楽しみにして」と笑顔を見せた。

 「作品を書くときのスイッチは?」「人はうそをつかないと生きていけないものですか」。若い読者からの質問に、考えをめぐらせながら丁寧に答えた道尾さん。会を振り返り、こう言葉を結んだ。

 「僕は小説と実人生は地続きでなければいけないと思っている。強さでも優しさでもなんでもいいから物語の世界で何かを手にし、現実の世界と行き来しながら、人生を豊かにしていってほしい」

 (文・中津海麻子 写真・御堂義乗)

鈴木海渡さん(高3)

「『光』の意味は難しかったけど、話し合って発想を広げる作業は楽しい」

高橋佑太さん(中3)

「他の人の意見や感想を聞き、作品への理解が深まりました」

南優花さん(中2)

「頭に映像で浮かぶ文面を書き写す、という道尾さんの小説の書き方は驚きでした」

 道尾秀介 みちお・しゅうすけ 1975年生まれ。『光媒の花』で山本周五郎賞、『月と蟹』で直木賞など受賞歴多数。他に『向日葵の咲かない夏』や『月の恋人 Moon Lovers』など。

道尾秀介さんの著書紹介
『水の柩』
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『龍神の雨』
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『カササギたちの四季』
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『月と蟹』
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