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佐藤優

友情を育むことの難しさ 佐藤優

 人間がひとりだけで生きていくことはできません。友情を欠いた人生は空虚です。友情は人間にとって最も重要な価値です。ところで皆さんも自分の心を見つめてみると、優しさと同時に意地悪さがあることに気づくと思います。

 ほんとうの友情をどうやって育むことができるかは、難しい問題です。夏目漱石『こころ』(新潮文庫ほか)は友情の難しさを扱った古典です。

 「先生」とKは、同じ下宿に住み、同じ大学に通う親友です。そして、2人とも下宿の娘さんを好きになってしまいます。Kは「先生」に恋について告白します。それを聞いて「先生」の中に意地悪さが頭をもたげます。

 「私は先(ま)ず『精神的に向上心のないものは馬鹿(ばか)だ』と云(い)い放ちました。これは二人で房州を旅行している際、Kが私に向(むか)って使った言葉です。私は彼の使った通りを、彼と同じような口調で、再び彼に投げ返したのです。然(しか)し決して復讐(ふくしゅう)ではありません。私は復讐以上に残酷な意味を有(も)っていたという事を自白します。私はその一言(いちごん)でKの前に横たわる恋の行手(ゆくて)を塞(ふさ)ごうとしたのです」

 「先生」は、下宿の娘さんと結婚し、Kは自殺してしまいます。そして「先生」は罪の意識を抱えながら生きていくことになります。

 角田光代さんの直木賞受賞作『対岸の彼女』(文春文庫)は、女性の友情の難しさを描いた作品です。角田さんは、「言葉を交わしているうち少しずつ、彼女が殻を割りその割れ目からこちらをまっすぐ見据えるような感触があった」と表現しますが、少し勇気を出して、誠実に話をすることが友情を育む秘訣(ひけつ)なのだと思います。

 湯浅誠さんの『岩盤を穿(うが)つ』(文芸春秋)を読むと友情について深く考えさせられます。湯浅さんはNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の事務局長などを務め、派遣切りにされた人々、ホームレスの人たちの救援に誠実に取り組んでいます。

 湯浅さんは、「私たちの毎日は『この人』『あの人』と名指せるような家族・友人・同僚らとの身近な関係の中にあり、その一人が苦しんでいれば心ざわつき、死ねば悲しい。それが私たち市民の日常であり、その平凡な生活を守るのが政治の役割に他ならない」と強調します。

 友情には社会的広がりがあることを、湯浅さんの行動と著述を通じて学ぶことがたいせつです。

 (作家・元外務省主任分析官)

『こころ』
著者:
夏目漱石
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新潮文庫
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『対岸の彼女』
著者:
角田光代
出版社:
文春文庫
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『岩盤を穿つ』
著者:
湯浅誠
出版社:
文藝春秋
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