どくしょ応援団

本を読もう。何を読もう? 迷ったら「どくしょ応援団」へ。親子で、ひとりで、夢中になれる本との出会いがここに!

ブックサーフィン

読むぞ! ホップ ステップ ジャンプ

佐藤優

苦しさに負けないために 佐藤優

 人生には、楽しい出会いもあれば、苦しく悲しい出会いもあります。出会いは、人間の考えと行動に大きな影響を与えます。苦しい出来事に出会ったとき、運命に負けないようにすることがたいせつです。それには、つらい出会いについて書かれた優れた本を読むことです。

 太平洋戦争末期の1944年8月22日、沖縄から九州に向かった学童疎開船対馬丸が米軍の潜水艦の攻撃を受けて一瞬のうちに沈没してしまいました。そこには約800人の小学生が乗っていましたが、生き残ったのはわずか59人でした。作家の大城立裕さんの『対馬丸』(理論社)は、できるだけ感傷を排して真実を伝えようとしています。船が沈没し、乗客は夜の海に投げ出されました。(以下、本文から)

    ※   ※

 「おかあさァん……」

 「ケン坊ッ……」

 このふたつの声が、さけびながらしだいに浪(なみ)におしはなされていったが、親子どうしであったのか。あるいは別々のよび声であったのか。なにしろ、海底に沈んでゆく者をもよびもどさんばかりにささくれだった声のむらがりであった。でも、

 「せんせェい……」

 「たすけてェ……」

 「××さァん……」

 そのような無数の叫び声が、刻々ひとつずつ減っていく。死だ。いくつもの死。つぎつぎと無雑作(むぞうさ)につくられてゆく屍体(したい)が、海面をしだいに分厚く覆っていった。

    ※   ※

 いま話題になっている米軍普天間飛行場の移設問題に対する沖縄の人々の気持ちを理解するためにも『対馬丸』を読むことを勧めます。

 貧困と戦争という個人の力では逆らえない運命の中で、子どもたちのなかにある優しさを最大限に伸ばそうとした教師の姿を壺井栄『二十四の瞳』(新潮文庫など)は描いています。生徒たちから「おなご(女)先生」としたわれた大石先生は、生徒との出会いをとてもたいせつにしています。

 普通の人間が貧困や戦争などの大きな力に対抗することはとても難しいです。中国の有名な作家、魯迅は「故郷」(光文社古典新訳文庫『故郷/阿Q正伝』所収)で、「希望とは本来あるとも言えないし、ないとも言えない。これはちょうど地上の道のようなもの、実は地上に本来道はないが、歩く人が多くなると、道ができるのだ」と述べます。この言葉が私たちに勇気を与えてくれます。

 (作家・元外務省主任分析官)

『二十四の瞳』
著者:
壺井栄
出版社:
新潮文庫
価格:
¥420(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp

『故郷/阿Q正伝』
著者:
魯迅
訳:
藤井省三
出版社:
光文社古典新訳文庫
価格:
¥800(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp

『対馬丸』
著者:
大城立裕
出版社:
理論社
価格:
¥1,680(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp