どくしょ応援団

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十代、こんな本に出会った

『深夜特急』 プロ棋士・羽生善治さん

羽生善治さん

異国への旅、自分の原点感じて

 私は「先が読める」と思われがちですが、先はまったく見えていないんです、常に。何十手も先のことなど想像できない。「先が見えないから面白いのだ」と、考えるようにしています。

 12歳で、日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」に合格した時もそうでした。私も両親も将棋の世界に疎く、「これも社会勉強だ。2、3年やって伸びなければ、将棋は趣味にすればいい」と、先のことはともかく飛び込んだ。私の生活に「移動」という時間が組み込まれたのは、この時からです。

 まず、月に3回は「奨励会」へ、片道1時間40分かけて通うようになりました。中学3年生の12月にプロ入りし、高校時代は、大阪などへの遠征も含めて月に10日はどこかで対局していました。この移動の間に、読書の習慣がついたと思います。

 沢木耕太郎さんの『深夜特急』(新潮文庫)に夢中になったのも、そんな移動の最中。インドからイギリスまで、ザックひとつで旅した沢木さんと、私の「移動」では趣が違いますが、旅のプロセスにすごくひかれました。

<え・米田民穂>

 中高生といえども、プロになれば社会人ですから、私も対局や催しへは、近い、遠いを問わず、ひとりで移動していました。親が付き添うなんて考えられない。それで当時は、同年代の棋士たちと、遠征の後、いろんな所へ足を延ばしたものです。仕事が終わり、「どこへ行こうか」と、駅で時刻表を見ながらみんなで相談。家出少年に間違われ、職務質問されたこともありました。

 『深夜特急』は沢木さんならではの表現力によって、見知らぬ国そのものの面白さ、そこに暮らす人々の息吹まで味わえます。それにも増してひかれたのは、1年の3分の1を旅先で過ごす、棋士人生の原点に似たものを感じたからかもしれません。

 自分が置かれた境遇や思い悩んでいること、それらに近い経験は、必ず誰かが本にしています。読めば自分の中のもやもやが解消されスッキリする。そんな価値あるものを逃したら、もったいないでしょう? だから私は毎月30冊くらい本を買ってしまう。そして、途中で読むのをやめても「積(つ)ん読(どく)」にはしないのです。

 本は買えば買うほど得をする。このスタンスは、10代のころから変わりません。

 (文・安里麻理子 写真・吉永考宏)

◆おすすめは

 先が見えない。きっかけが欲しい。そんな時には、『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大発見』(J・ロジャーズ著、日経ビジネス人文庫・880円)。「世界はまだまだ広い」と視点を変えてくれます。『日本人への遺言』(松原泰道著、マガジンハウス・1575円)には、101歳の長寿を全うした禅僧・松原さんから「人生は長い、今の悩みがどうでもよく思えるほど」と諭された思いが。『動的平衡』(福岡伸一著、木楽舎・1600円)では、なぜ人は生物学的には苦手であるはずの行動をとるのかが、とても納得できました。

 ただ、自分にとっていい本、受け入れられる本は、自らすすんで探さないと見つかりません。ここが大事です。

はぶ・よしはる  プロ棋士 1970年、埼玉県生まれ。15歳で史上3人目の中学生プロ棋士に。96年、史上初の7冠独占。
『深夜特急〈1〉香港・マカオ』
著者:
沢木耕太郎
出版社:
新潮文庫
価格:
¥420(税込)
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『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』
著者:
福岡伸一
出版社:
木楽舎
価格:
¥1,600(税込)
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『冒険投資家ジム・ロジャーズ世界大発見』
著者:
ジム・ロジャーズ
出版社:
日経ビジネス人文庫
価格:
¥880(税込)
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『日本人への遺言』
著者:
松原泰道
出版社:
マガジンハウス
価格:
¥1,575(税込)
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