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本田由紀

「食べる」ってどういうこと 本田由紀

 今朝、何を食べましたか? 人間にとって切実なことは数々あれど、「食べる」ってこともそのひとつですよね。めんどくさくてもおなかは減るし、できればおいしく食べたいし。「食べる」ことはドラマチックでもあります。たとえば岡本かの子が1939年に発表した「鮨(すし)」(『食魔』講談社文芸文庫に収録)という短編では、食の細い子どもに何とか栄養あるものを食べさせようと、母親が自分の手で幾つものお鮨を握ります。それを噛(か)み砕(くだ)いた子どもが、おいしさと喜びのあまり自らの脇腹を掴(つか)んで「ひ ひ ひ ひ ひ」と笑い声をあげる場面は、生命の凄(すご)さを生々しく伝えてくれます。

 では21世紀の今、人間はどんなふうに食べているのか。家庭の食生活の調査を長く続けてきた岩村暢子さんの『家族の勝手でしょ!』(新潮社)には、日常の食卓の写真が274枚も掲載されていて、現代の「食べること」のあり方を知る興味深い資料になっています。そのメニューは、主食と主食の組み合わせだったり、お菓子だけだったり、外で買ってきた総菜や弁当だけだったり、家族ばらばらのものだったり、確かに上記の「鮨」とも、はたまた例の磯野家の食事シーンとも、かなり様子が違います。この本は、そういう食卓の現状に対して、明に暗に批判的です。でも、「心のこもった手作りのごはん」を「家族みんなで一緒に囲む」っていう“理想”と、それとは異なる現実のギャップを言い立てても、誰が喜ぶんだろう、って思います。喜ぶ人は、まず自分できっちり三度三度やってからにしてねって。

 今の「食べる」ことの裏側を理解するためには、食べ物が世の中を巡り巡ってお口に入るまでのことも、もちろん知っておく必要があります。食卓の写真にもしばしば写っていたコンビニ弁当を切り口にして、グローバル経済のからくりにまで論を展開しているのが、『コンビニ弁当16万キロの旅』(太郎次郎社エディタス)です。かわいいイラスト満載ですが、内容は重い。コンビニ経営の難しさやもうけの少なさ、24時間流れ作業で弁当を作り続ける工場、そしてフード・マイレージやバーチャル・ウオーターなどの概念まで、わかりやすく説明してくれています。「食べる」ことは、こうした巨大なシステムの果てにある。あなたが何かを「食べる」とき、あなたは世界を噛んで飲み下しているのです。自分の力だけで生きてるなんて思っちゃあいけませんぜ。

 (東京大学教授・教育社会学)

『食魔』
著者:
岡本かの子
出版社:
講談社文芸文庫
価格:
¥1,470(税込)
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『家族の勝手でしょ!』
著者:
岩村暢子
出版社:
新潮社
価格:
¥1,575(税込)
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『コンビニ弁当16万キロの旅』
著者:
コンビニ弁当探偵団
出版社:
太郎次郎社エディタス
価格:
¥2,100(税込)
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