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十代、こんな本に出会った

『谷内六郎展覧会』 アートディレクター・佐藤可士和さん

佐藤可士和さん

「道」に悩んだときに帰る場所

 「描く」という行為は、僕にとって、空気を吸うのと同じ。日常の中での、自然な営みでした。

 幼い頃は毎日、建築家の父が仕事で使った製図の青焼きの裏にお絵描き。小学生になると、近所の公園へ行ってスケッチ。「週刊少年マガジン」に連載中だった赤塚不二夫さんの「天才バカボン」のタイトルページを、丸ごと完璧(かんぺき)に模写する作業に没頭した時期もあります。

 ただ、絵を描くのが好きだという以外は、剣道やサッカーで体を動かす、ごく普通の中高生でした。進路に迷った高2の冬。ふと思ったんです。「自分には、文系とか理系ではなく、美術という選択肢があるのではないか?」と。

 試しに、美術大学受験予備校の冬期講習に出かけました。すると、石膏(せっこう)でできたヘルメス像を、木炭でひたすらデッサンしろという。絵を習ったことがない僕は、当然、下手でした。でも、これが最高に楽しく、講習初日にして、「描く行為の延長に、自分の将来はある」と、直感したのです。

 「マルセル・デュシャン」という20世紀初頭の芸術家に衝撃を受けたのは、高3の頃。友人が見せてくれた画集に「泉」という作品と解説が載っていた。

<え・米田民穂>

 大量生産の便器にサインを入れただけの「泉」は、「創(つく)ることを否定する芸術もあるのだ」という視点を投げかけた、最初にして最後の作品ではないでしょうか。デュシャンには、今でも、「これまでになかった考え方を提示するのがクリエーターの仕事だ」と、教わっている気がします。

 文庫版『谷内六郎展覧会』(※現在は絶版。『四季・谷内六郎』アートデイズ刊に、作品の一部が収められている)に出会ったのも受験勉強の最中で、浪人中だったように記憶しています。結局、僕は2浪したんです。「こんなにも美術が好きだから、必ずできる」と信念は固かったものの、さすがに焦りました。

 そんな折、谷内さんが描く心象風景はどこか懐かしく、文章にも心打たれた。「週刊新潮」の表紙としてではなく「絵画」として味わいたくて購入し、今も手元にあります。

 その後、僕は晴れて美術の世界に入りましたが、悩んだり、割り切れない気持ちになったりすると、何度もあの頃の本に帰りました。10代の本とは、そういう場所かもしれません。

 (文・安里麻理子 写真・吉永考宏)

◆おすすめは

 中学生の頃、『走れメロス』(太宰治著、新潮文庫など・420円)に、実況中継を聞いているようなリズム感、スピード感を覚えました。「私は、今宵(こよい)、殺される。殺される為(ため)に走るのだ」など、簡潔で美しいフレーズもたくさんあり、このように無駄のない文章を書きたい、話をしたいと思っていますが、難しい。あこがれです。

 また、「個性を伸ばそう」という教育は正しいか?など、今まで「常識」だと思っていたことには間違いも多いのだと『バカの壁』(養老孟司著、新潮新書・714円)を読んで気づかされました。常識や前提に縛られず、本質を見極めることの重要性が、10代にもわかりやすく書かれていておすすめです。

さとう・かしわ  アートディレクター 1965年、東京都生まれ。博報堂勤務を経て2000年に独立。国立新美術館のロゴを担当。
『四季・谷内六郎』
著者:
谷内六郎
出版社:
アートデイズ
価格:
¥1,300(税込)
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『デュシャン』
著者:
ジャニス・ミンク
出版社:
タッシェン
価格:
¥1,575(税込)
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『走れメロス』
著者:
太宰治
出版社:
新潮文庫
価格:
¥420(税込)
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『バカの壁』
著者:
養老孟司
出版社:
新潮新書
価格:
¥714(税込)
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