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池田清彦

見えないものが支配する 池田清彦

 10月に名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開かれることもあって、最近生物多様性についての議論が盛んだ。ただ、国際会議はとかく生物多様性の保護を名目に金もうけをしようという話になりがちで、生物多様性の理解のためには、会議よりもまず足元を見つめることの方が大事である。

 そこで最初に紹介するのは『人類にとって重要な生きもの ミミズの話』(エイミィ・ステュワート、飛鳥新社)。ダーウィンが長い間ミミズの研究を続け、肥沃(ひよく)土の形成にミミズが重要な役割を果たしていることを明らかにしたのはよく知られているが、ミミズの働きはダーウィンが考えていたよりもずっと大きいようだ。ミミズは1エーカー(約40アール)あたり多い所では数百万匹もいて、生息するミミズの種類と量によって、土の上の陸上生態系は支配されてしまうという。ニュージーランドで牧草が青々と茂ったのはヨーロッパから移植したミミズのおかげだが、米ミネソタ州の森に侵入したヨーロッパからのミミズは、現地の固有森林生態系を破壊しているという。私たちは見えるものにしか興味を示さないが、見える生物多様性は見えない生物ネットワークに支配されているのだ。本書ではまた、農薬の使用がミミズを殺し、土壌生態系に甚大な影響を及ぼしていることも指摘されている。日本でも最近、虫の数が激減しているが、土壌生態系の変化と関係があるに違いないと思う。

 松林からマツタケが採れなくなったのも、土壌生態系の変化と関係がある。『里山再生を楽しむ! まつたけ山“復活させ隊”の仲間たち』(吉村文彦&まつたけ十字軍運動、高文研)はマツタケ山復活というテーマの下に里山を再生させる実践の記録である。松林の下に落ち葉がたまり、富栄養化が進むとマツの根とマツタケ菌の共生が阻害され、マツタケが出なくなるという。ここでも見えるものは見えない関係に支配されているのだ。ボランティア活動で里山を再生させるという試みはすばらしいが、同時にボランティアばかりに頼らないシステムの構築が必要だろう。

 『フンころがしの生物多様性』(塚本珪一、青土社)は、人々が忌み嫌うフンをすみかとするフン虫たちも、また立派な生物多様性の担い手であることを宣言した本。日本には約160種のフン虫が生息するが、人々の清潔志向のせいで多くは絶滅危惧(きぐ)種になっている。フン虫もすめない生物多様性では仕方がないと著者は言う。私も同感だ。

(早稲田大学教授 生物学)

『ミミズの話』
著者:
エイミィ・ステュワート
訳:
今西康子
出版社:
飛鳥新社
価格:
¥1,785(税込)
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『"まつたけ山“復活させ隊”の仲間たち―里山再生を楽しむ!』
著者:
吉村文彦・まつたけ十字軍運動
出版社:
高文研
価格:
¥1,680(税込)
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『フンころがしの生物多様性』
著者:
塚本珪一
出版社:
青土社
価格:
¥2,310(税込)
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