どくしょ応援団

本を読もう。何を読もう? 迷ったら「どくしょ応援団」へ。親子で、ひとりで、夢中になれる本との出会いがここに!

ブックサーフィン

読むぞ! ホップ ステップ ジャンプ

池田清彦

脳機能、最新の研究は 池田清彦

 脳の機能についての研究は日進月歩で、新しい知見がどんどん集積している。ただ、科学的根拠に乏しい脳力アップのトレーニング本なども出版されているので注意が必要だ。ここでは現場の研究者が書いた最新の脳研究の成果を紹介しよう。

 まず『なぜ、歩くと脳は老いにくいのか』(久恒辰博、PHPサイエンス・ワールド新書)。前世紀までは、脳の神経細胞は成人してからは新しく作られることはなく、ひたすら消滅するばかりだと考えられていたが、近年になって脳にも神経幹細胞が存在し、成人してからもこれが分裂して新生細胞が作られることが分かってきた。

 本書は運動をすると脳の一部に新しいニューロンがたくさん生まれて、アルツハイマー病の予防になることを論じた本で、データに基づく議論には説得力がある。認知症の原因や食事との関係についても論じており、ApoE4というたんぱく質を作る遺伝子を持つ人は、そうでない人に比べ、アルツハイマー病になる確率が極めて高くなるといった話も書いてある。原因遺伝子が分かることは将来の画期的な治療法の開発にもつながるわけで、さらなる研究を期待したい。

 睡眠が健康を保つのに重要なのは直感的に明らかだが、『睡眠の科学』(櫻井武、講談社ブルーバックス)は最新の成果を紹介しながら、脳の機能保持のために、睡眠が極めて重要なことを科学的に論じた本だ。著者は、オレキシンという覚醒と睡眠の切り替えに深く関わる物質を発見した研究者で、様々な脳内物質が睡眠をどうコントロールしているかを丁寧に論じており、読み応えがある。睡眠は覚醒時に酷使した脳のメンテナンス過程であり、さらにレム睡眠(この時に夢を見ていることが多い)は記憶の整理過程であるという著者の仮説は興味深い。

 最後に紹介するのは心と脳の関係を論じた『脳はなぜ「心」を作ったのか』(前野隆司、ちくま文庫)。「私とは」「心とは」という大問題に正面から挑んだ野心作だ。「心」や「私」の存在は脳の研究からは解けないという見解に著者は真っ向から反対して、「心」や「意識」は脳に制御されているにもかかわらず、脳を制御していると錯覚しているのだと主張する。ロボット研究者でもある著者は人間の脳の機能をまねたロボットを作れば、このロボットは「心」を持つだろうと予想する。「心」は主観であり、その存在を客観的に証明することはできないが、面白い考えだ。

(早稲田大学教授〈生物学〉)

『なぜ、歩くと脳は老いにくいのか』
著者:
久恒辰博
出版社:
PHPサイエンス・ワールド新書
価格:
¥882(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp

『睡眠の科学』
著者:
櫻井武
出版社:
講談社ブルーバックス
価格:
¥945(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp

『脳はなぜ「心」を作ったのか』
著者:
前野隆司
出版社:
ちくま文庫
価格:
¥798(税込)
この商品を購入するヘルプ
Amazon.co.jp