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佐藤優

本当の友になるために 佐藤優

 人生にとって友達はとてもたいせつです。しかし、日本の教育には友達を作りにくくする構造的欠陥があります。このことを私に教えてくれたのが同志社大学神学部で私に現代神学の手ほどきをしてくれたクラウス・シュペネマン先生です。

 その頃、先生は京都市立下鴨小学校のPTA会長をつとめていました。その経験を踏まえシュペネマン先生は1980年に『男の子の躾(しつ)け方』という本を出版しました(現在は光文社知恵の森文庫)。先生はそこで、「ペーパーテスト主義も、教育ママのテスト重視主義も、広い視野で見ると、現実社会の中で、他人を蹴落とし、自分だけがどうやれば人より上に出られるか、より生きのびられるかということで、よい評価を得ようとするあがきにすぎない」と指摘しました。

 シュペネマン先生はいつも「人間にとって大切なのは、自分の能力を他人のために使うことです。受験競争の発想を捨てて、友達をたいせつにする人間にならなければ、ほんとうに神学を勉強したことにはなりません」と強調していました。

 私は外交官になって、日本社会のエリートである官僚や政治家を間近で見ました。もちろん人間的に優れた人もいました。しかし、勉強はよくできるのですが、他人の気持ちになって考えることが苦手で、友達を必要としない孤独な人をたくさん見ました。日本の未来がとても心配になりました。

 イギリスの作家H・G・ウエルズは、『タイム・マシン』(岩波文庫ほか)という空想科学小説で、人類の未来を描きましたが、そこで描かれたのは「文明の増大は愚かさの増大にすぎず、やがて反動的に人類を破滅させるだろう」という姿でした。みんながほんとうの友達になれば人類の破滅を避けることができます。

 誰かをいじめることで結びつくのは偽りの友達です。また、いつも一緒にいて、相手と自分を一体化させようとしてもほんとうの友達にはなりません。お互いに別の人格だということを理解し、一定の距離を維持しながら理解し合うのがほんとうの友達だと私は考えます。

 角田光代さんの小説『対岸の彼女』(文春文庫)は友達とは何かという問題を扱った傑作です。「立場も違う、ものの見方も、持っているものもいないものも違うが、いつか同じ丘の上で、着いた着いたと手を合わせ笑い合う」という角田さんの表現が、私が考える友達像に合致します。

 (作家・元外務省主任分析官)

『対岸の彼女』
著者:
角田光代
出版社:
文春文庫
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『男の子の躾け方』
著者:
クラウス・シュペネマン
出版社:
光文社知恵の森文庫
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¥560(税込)
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『タイム・マシン 他九篇』
著者:
H・G・ウェルズ
訳:
橋本槇矩
出版社:
岩波文庫
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