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本田由紀

言葉の力を見直す 本田由紀

 東日本大震災の現実や報道、特に津波やがれきの映像に接して、絶句した人は多いでしょう。被災者やジャーナリストからも、今目の前で起きている事態を表す言葉がない、という感慨が多く聞かれました。他方で、テレビから繰り返し流れたACジャパンの広告では、あいさつや、他者に投げかける言葉の大切さが強調されました。言葉には力があるのか、それとも無力なのでしょうか?

 確かに、巨大すぎる悲惨は安直な言葉を拒絶します。でも、私たちが現実を表現し認識する際に、言葉はやはり必要です。長谷川櫂(かい)『震災歌集』(中央公論新社)を開けば、たった31文字の中にも事実とそれを見る者の思いを凝縮できることが実感されます。「乳飲み子を抱きしめしまま溺れたる若き母をみつ昼のうつつに」。彫琢(ちょうたく)された言葉を紡ぎ、残すこと。それは私たちにできるせめてもの祈りと誓いです。

 そして忘れてはならないのは、この社会の抱える多くの問題は、大震災のずっと前から明らかに深刻化しており、その中で人々は苦渋にもだえながら生きてきたということです。天災はそれらを更地にするどころか、むき出しにしました。権力や資本の醜さと人間のいとおしさを、やはり詩という形で表現し続けてきた人に、石垣りんさんがいます。『レモンとねずみ』(童話屋)は、未刊だった詩を編んだ美しい本です。「大きな国の腕の中で/どうしてこどもは軽いのだろう。/どうしていのちはちいさいのだろう。」(「やさしさ」)。言葉は鋭い剣にも慰撫(いぶ)する手にもなりうるのです。

 ただし、言葉は――あるいは、言語は――それ自体の特性や制約をはらんでいることも事実です。私たちがふだん意識せずに使っている日本語というものを客観的に見つめ直したい人には、井上ひさし『日本語教室』(新潮新書)がお薦めです。日本語の由来や特徴、あいまいさが、社会批評とともにわかりやすく説明されています。東北を愛した井上さんがもし存命であれば、今の現実をどのような言葉で表現されたか。その課題を、これからは私たちが担わなければなりません。

 (東京大学教授 教育社会学)

『震災歌集』
著者:
長谷川櫂
出版社:
中央公論新社
価格:
¥1,155(税込)
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『レモンとねずみ』
著者:
石垣りん
出版社:
童話屋
価格:
¥1,313(税込)
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『日本語教室』
著者:
井上ひさし
出版社:
新潮新書
価格:
¥714(税込)
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