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本田由紀

他者の声に耳澄ます 本田由紀

 東日本大震災は、はかり知れない自然の脅威や、ひとの「死」というものを、私たちに突きつけました。それは確かに、厳しく、おそろしく、つらいことでした。同時に私たちは、人知を超えた圧倒的な何かと向かい合うとき、ある敬虔(けいけん)な感情に打たれます。たとえば、梨木香歩『西の魔女が死んだ』(新潮文庫)で、主人公のまいは、豊かな自然のそこかしこに、亡き祖父の魂を感じます。そして祖母も世を去ったとき、まいは祖母が降り注ぐような愛情を残してくれていたことを知ります。この本は、「スピリチュアル」な世界がもつ透明な美しさを描き出しています。

 若い人の中には、そのような自然もしくは超自然、魂、霊、愛といったことがらに強く惹(ひ)かれる人も多いようです。「現代日本人の意識構造」という調査は、若者の間で「奇跡」を信じる度合いが強まっていることを示しています。そうした現象を掘り下げているのが、堀江宗正『若者の気分 スピリチュアリティのゆくえ』(岩波書店)です。若者たちへの丹念なインタビューから、高次の精神性や「宇宙的秩序」に近づこうとする彼らの内面を記述しています。彼らはとても真摯(しんし)です。ただ、気になるのは、彼らの「スピリチュアリティ」が、ひっそりと閉じて「自分(だけ)を高める」ことを意味しているように見えることです。まるで、周りの俗悪なあれこれから目を背けているかのように。

 超越的な何かを目指す心からすれば、確かに今の世の中やそこにうごめく人々は、ぶざまで弱く愚かに映るかもしれません。でも、この醜い地上にしか私たちの生きる場所はない。加賀乙彦『不幸な国の幸福論』(集英社新書)は、日本という社会に人々を不幸にする様々な問題があふれていることを見据えつつ、そこでいかにして幸福な「生」と「死」を実現できるかを説いています。それは、しなやかに考え、周囲に働きかけ続けること。孤高の「スピリチュアリティ」ではなく、他者の声に耳を澄まし関わり続ける、柔らかく温かい魂が増殖してくれるといいな、と思います。

 (東京大学教授〈教育社会学〉)

『西の魔女が死んだ』
著者:
梨木香歩
出版社:
新潮文庫
価格:
¥420(税込)
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『若者の気分 スピリチュアリティのゆくえ』(シリーズ若者の気分)
著者:
堀江宗正
出版社:
岩波書店
価格:
¥1,575(税込)
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『不幸な国の幸福論』
著者:
加賀乙彦
出版社:
集英社新書
価格:
¥756(税込)
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