どくしょ応援団

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十代、こんな本に出会った

『日本人のへそ』 劇作家・演出家・俳優、野田秀樹さん

野田秀樹さん

徹底した言葉遊び、まいった

 日曜日の朝、近所の本屋さんで文庫本を1冊買う。それが小学生のころの楽しみだった。文庫本って大人っぽいでしょ。といっても買ったのは読みやすそうな『小川未明童話集』とか壺井栄の『二十四の瞳』とか。そのころから幸福な話より、もの悲しい話のほうが好みだったみたい。

 中身も知らずに永井荷風の『あめりか物語』を買って帰って、おやじに「本屋に返してこい!」って叱られたことも。色街の話なんか出てくるわけだから、今思えば小学生には早いってことでしょう。

 中学時代はあまり本を読まなかったから飛ばして、さて高校時代。周りは吉本隆明だ、大江健三郎だ、安部公房だとうるさかったけど、へそ曲がりな僕は松本清張とか、それから兄の本棚にあった坂口安吾。最初の安吾は「道鏡」(講談社文芸文庫『桜の森の満開の下』所収)だったかな。文体が鮮烈であっという間にかぶれた。一時期乗り移られたもの、安吾に。

 演劇部に入っていたから、名だたる劇作家の戯曲にもいちおう目を通していて、中でも井上ひさしさんの「日本人のへそ」(新潮社『井上ひさし全芝居 その一』所収)。これにはまいった。

高校2年。初の自作戯曲「アイと死をみつめて」の舞台(本人提供)

 井上さんって人形劇の「ひょっこりひょうたん島」が有名だったから、寺山修司さんや別役実さんらに比べて、演劇の前衛、第一線って印象は薄かった。ところが「日本人のへそ」は、ストリッパーは出てくるわ、言葉遊びは偏執的なまでに徹底してるわで、スゴイと思った。井上さんの言葉遊びは歴史に根ざしていて深いんだ。自分の直感的な言葉遊びとは種類が違う。そんなところも面白かった。

 初めて戯曲めいたものを書いたのは高校2年の時。創作劇をやろうってことで、いつも妄想していたことをノートの切れ端に書き殴っただけのものだったけど、なぜか評判がよくてね。これで芝居を続けるはめになった。

 妄想はね、得意なんだ。妄想に夢中で、駅で見知らぬおじさんの周りをぐるぐる回っていて、気持ち悪がられたこともある。物理の授業でストロボ実験やれば「芝居で使えないかな」って勉強そっちのけ。街を歩いても本を開いても、今も妄想ばかりしてる。

 (聞き手・安里麻理子 写真・吉永考宏)

◆おすすめは

 『夢みるピーターの七つの冒険』(イアン・マキューアン著、真野泰訳、中公文庫・620円)のピーターくんは、「頭が勝手にどこかに遊びにいってしまう」10歳の男の子。妄想癖があるんだ、僕みたいに。子どもならではの妄想世界が楽しいし、必ず我に返って終わるところが演劇的。読みやすいと思うよ。

 登場人物の妄想とか空想を読まされるのは苦手という人には、『クライム・マシン』(ジャック・リッチー著、好野理恵他訳、晶文社・2520円)を。ミステリーの短編集だからさらっと読める。僕が気に入っているのは探偵の話。その探偵、吸血鬼なんだ!

のだ・ひでき  1955年、長崎県生まれ。英国留学を機に「劇団夢の遊眠社」解散。帰国後「NODA・MAP」主宰。岸田戯曲賞、朝日賞など受賞多数。
『道鏡(講談社文芸文庫「桜の森の満開の下」所収)』
著者:
坂口安吾
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講談社文芸文庫
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『日本人のへそ(「井上ひさし全芝居 その1」所収)』
著者:
井上ひさし
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新潮社
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『夢見るピーターの七つの冒険』
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イアン・マキューアン
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中公文庫
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『クライム・マシン』
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ジャック・リッチー
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晶文社
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