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佐藤優

信頼築き理解し合う 佐藤優

 コミュニケーションできる力をつけるためには、相手との信頼関係を構築することが不可欠です。チェコの作家カレル・チャペックは人間と猫の間のコミュニケーションについてこう書いています。「あなたにニャオーと鳴き、あなたの目を見て言う。『人間さん、ここのこのドアを開けてちょうだい。大食いさん、あんたが食べてるものを、あたしにもちょうだい。あたしを撫(な)でてちょうだい。(略)』あなたに対するとき、猫は、一匹(いっぴき)狼(おおかみ)的な野獣の影ではない。あなたにとっては、単に、家のニャン子ちゃんだ。というのも、あなたを信頼するからだ。野獣というのは、信頼しない動物のことだ」(石川達夫訳『チャペックの犬と猫のお話』河出文庫)。

 信頼関係のないところに真実のコミュニケーションは生まれません。イソップ物語で、狼が仔羊(こひつじ)に水を汚していると言いがかりをつけます。「仔羊が、ほんの唇の先で飲んでいるだけだし、それでなくても、川下にいて上流の水を濁すことはできない、と言うと、この口実が空を切った狼は、『しかしお前は、去年俺の親父(おやじ)に悪態をついたぞ』と言った。一年前はまだ生まれていなかった、と仔羊が言うと、狼の言うには、『お前がどんなに言い訳上手でも、俺としては食べないわけにはいかないのだ』」(中務哲郎訳『イソップ寓話(ぐうわ)集』岩波文庫)。狼は仔羊を食べてしまうことを決めています。そのために見せかけの対話を行っているのです。こういうやりとりからコミュニケーション力は育ちません。

 信頼関係ができたところで、論争や討論の訓練を積むことが重要です。論争や討論は自分の考えを絶対に譲らない人が言い争うけんかではありません。歴史学者の澤田昭夫先生は、「美しい論争、討論の前提は、論理の整合性、鋭さということです。よくまとまった、説得力のある論議について英語で『水もれしない』hold waterという比喩的形容があります」(『論文の書き方』講談社学術文庫)と説明します。若い頃から論理の整合性を意識しながら話す訓練をすると、着実にコミュニケーション力がつきます。

 (作家・元外務省主任分析官)

『チャペックの犬と猫のお話』
著者:
カレル・チャペック
訳:
石川達夫
出版社:
河出文庫
価格:
¥578(税込)
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『イソップ寓話集』
著者:
イソップ
訳:
中務哲郎
出版社:
岩波文庫
価格:
¥840(税込)
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『論文の書き方』
著者:
澤田昭夫
出版社:
講談社学術文庫
価格:
¥945(税込)
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