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佐藤優

愛を忘れる危険 佐藤優

 人間にとって愛はとてもたいせつです。しかし、相手の気持ちを考えずに自分だけに愛情が向けられると、それは執着になってしまい、不幸をもたらします。坂東眞砂子『死国』(角川文庫)では愛と執着の複雑な関係が見事に描かれています。主人公の比奈子は20年ぶりに故郷に帰り、幼なじみの莎代里が事故死したことを知ります。莎代里の母は、四国八十八札所を娘が死んだ歳(とし)の数だけ普通と逆の順番で回ると死者がよみがえるという言い伝えに従い、実行します。よみがえった莎代里は、執着の塊のような妖怪になっていました。「莎代里は嘲るような表情を浮かべた。〈どうして、あたしが汚れた霊やの。おんなじよ。谷におる霊も、山におる霊も。汚れたやの、汚れてないやのは、あんたらの決めたこと。うちは、この世に戻ってきとうてたまらんかっただけ。ほんやき魂を取りに来た〉」。死者をよみがえらせるというような、自然の秩序に反することを無理に行ったために不幸が生まれます。

 『死国』はホラー小説ですが、現実の世界でも、人間が自然に無理な働きかけをして、それが深刻な問題を引き起こしています。原発事故などもその例です。萱野稔人・神里達博の対談本『没落する文明』(集英社新書)は、この問題について、真剣な議論をわかりやすく展開しています。萱野先生の「日本の人文社会系の学問では、自然条件から社会のなりたちを考えるという発想はひじょうに旗色が悪いですね。しかし、存在論的立場からいえば、自然と社会を分離して考えることはできません」という意見に賛成します。存在論とは、いままでの常識を疑って、物事を深く考えることです。

 川上弘美さんは、福島第一原発事故を踏まえ『神様2011』(講談社)という作品を書きました。あとがきで川上さんは「人間は、あちこちのウラン235をかきあつめてぎゅうーっとかためて、(中略)/ウランの神様がもしこの世にいるとすれば、いったいそのことをどう感じているのか」と言います。豊かさや便利さに執着して、愛を忘れる危険をこの3冊の本が教えてくれます。

 (作家・元外務省主任分析官)

『死国』
著者:
坂東真砂子
出版社:
角川文庫
価格:
¥620(税込)
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『没落する文明』
共著:
萱野稔人、神里達博
出版社:
集英社新書
価格:
¥756(税込)
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『神様 2011 』
著者:
川上弘美
出版社:
講談社
価格:
¥840(税込)
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