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本田由紀

60年代の日本を知る 本田由紀

 いまがつらくても、未来に確かな希望を抱ければ、つらさは軽くなるでしょう。でも、未来に展望を抱けなくなったとき、人々は失った過去にしかよりどころを見いだせなくなります。終身雇用や専業主婦を是とする若者が増えたり、昔の子育てを政治家が称賛したりするのは、そうした事態の表れです。では、私たちの過去――特に、日本が活力に満ちていたように思われる高度経済成長期――は、どのような時代だったのでしょうか。

 高度成長ピーク期の1969年に刊行され、ロングセラーにもなった山中恒『ぼくがぼくであること』(角川文庫)では、大学生の息子が母親に次のような言葉をぶつけます。「おかあさんのように人を愛することもしないで、めさきのことだけで結婚し、ただ自分の気分のためにだけ、子供を勉強へ追いやり、(中略)一流会社へいれて、なにごともなくぶじにすごしたいというおとなたちが、この不正でくさりきった社会をつくってしまったんだよ」。堅牢に見えた成功へのレールは、エゴや欺瞞(ぎまん)の枕木の上に載っているように感じられていたのです。

 当時の社会に対する若者の不満は、大学だけでなく高校でも噴出していました。小林哲夫『高校紛争 1969――1970』(中公新書)は、高校生と教師との間で時に激烈な形をとった敵対関係を詳細に描いています。若者が政治活動に参加すること自体は望ましいとしても、あっけなく沈静化し、当事者にはむなしさを、教育現場には管理強化を残した運動が、未熟さをはらんでいたことは否定できません。

 社会構造面でも、60年代とは、戦争の残滓(ざんし)を引きずりつつ産業が農業から商工業へとみしみしと転換する中で、それに乗り遅れた貧困層を含む多様な形の世帯がひしめいていた時代でした(橋本健二編著『家族と格差の戦後史』青弓社)。「貧しくても幸せ」で片づけることができない格差や排除が、明らかに存在していたのです。

 過去を美化するのではなく、過去を知った上で新たな未来を構想することこそが、いま必要なのです。

 (東京大学教授〈教育社会学〉)

『ぼくがぼくであること』
著者:
山中 恒
出版社:
角川文庫
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¥540(税込)
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『高校紛争 1969-1970』
著者:
小林哲夫
出版社:
中公新書
価格:
¥903(税込)
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『家族と格差の戦後史』
編著:
橋本健二
出版社:
青弓社
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