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十代、こんな本に出会った

『チップス先生』と梶井基次郎 漫画家・村上もとかさん

村上もとかさん

「いつか漫画で」憧れた世界観

 集団生活が苦手な小学生でした。「仲間に入れて」と言えない。だから休み時間は、学校に併設されていた市立図書館の分室に直行でした。

 その図書室には、当時人気だった少年漫画雑誌が、そろっていました。そのころの漫画雑誌は、漫画だけでなく、読み物のページもあって、僕は、中西立太さんが描くリアルな挿絵が好きだった。

 見よう見まねで戦闘機や軍艦を描き始めたら、楽しくなって、図工の時間も、みんなが花とか写生している中、ひたすら軍艦を描きました。

 父が、映画会社の美術部だったんですよ。細部にまでこだわる小津安二郎監督の話を聞かされ、その影響があったのでしょうか。ぼくも絵を描く時は、リアリティーにこだわるようになって。将来は、挿絵画家になろうと、中学で美術部に入りました。

 そのころ、おこづかいで買って感動したのが『チップス先生さようなら』(J・ヒルトン著、新潮文庫)です。

高校2年生のころ。修学旅行先で撮影=本人提供

 舞台は19世紀末から20世紀初頭のイギリス。チップス先生は伝統あるパブリックスクールの名もなき教師ですが、退職した今も胸によぎるのは第1次世界大戦を始め、歴史の大きなうねりに巻き込まれていった生徒たちの姿です。

 時代の流れを市井の何げない日常から眺める……。こういう世界観が、僕は今も、好きなんです。

 将来の夢が一転して「漫画家」に変わったのは、高2のころです。

 美術部でデッサンを続けていたある日、アート系漫画雑誌に掲載された、つげ義春さんの作品が目に飛び込んできた。「漫画で文学的な表現ができるとは!」と、衝撃を受けました。

 ちょうど、国語の教科書に載っていた「檸檬(れもん)」がきっかけで、梶井基次郎に傾倒した時期でした。

 中でも短編「闇の絵巻」(ちくま文庫『梶井基次郎全集』所収)は、闇の描写が映像的で実に素晴らしく、いつか漫画で表現してみたいと、思ったものです。

 その夢は、45歳でかないました。チップス先生の世界観と、梶井基次郎の文学。この二つの出会いがなかったら、僕の漫画は違う作風になっていたかもしれません。

 (ライター・安里麻理子 写真家・吉永考宏)

◆おすすめは

 今年、ヒッグス粒子が発見されて人類はまた一歩、宇宙誕生の謎に迫りました。『宇宙は何でできているのか』(村山斉著、幻冬舎新書・840円)はヒッグス粒子発見の手前までを解説。科学者の探究心は本当にすごい。

 謎といえばキリスト教も不思議。なぜ欧米社会に根付いたのか。『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎・大澤真幸著、講談社現代新書・882円)で歴史をリアルに感じてください。

 『サイゴンから来た妻と娘』(近藤紘一著、文春文庫・520円)は半世紀前のベトナム戦争が今の10代にどう映るか、感想が気になる一冊です。

むらかみ・もとか  1951年、東京都生まれ。幕末にタイムスリップした脳外科医と歴史上の人物の交流を描いた医術漫画『JIN―仁―』が話題に。
『チップス先生さようなら』
著者:
ヒルトン
出版社:
新潮文庫
価格:
¥420(税込)
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『梶井基次郎全集 全1巻』
著者:
梶井基次郎
出版社:
ちくま文庫
価格:
¥924(税込)
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『宇宙は何でできているのか』
著者:
村山 斉
出版社:
幻冬舎新書
価格:
¥840(税込)
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『ふしぎなキリスト教』
著者:
橋爪大三郎/大澤真幸
出版社:
講談社現代新書
価格:
¥882
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『サイゴンから来た妻と娘』
著者:
近藤紘一
出版社:
文春文庫
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