どくしょ応援団

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十代、こんな本に出会った

太宰治『人間失格』 僧侶・小池龍之介さん

生きづらさ、肯定してくれた

 「本が好きな人」を装うことを覚えたのは中学生のころでした。きっかけは小学6年生での引っ越しです。大阪から山口の学校に転校し、大阪のノリでベタベタ友だちにまとわりついたら「気色悪いヤツ」と疎まれることに。

 ショックと、周囲に溶け込めない不安感からか、高校では「本に夢中で皆さんとはつきあえない私」というポーズで休み時間をやりすごしていました。

 とはいえ、私は本心から「本が好き」だったのではなく、「太宰治」の、しかも破滅的な作品だけを好んで読んでいたにすぎなかった。

 とりわけ繰り返し読んだのが、『人間失格』(角川文庫ほか)でした。この本を読んだ時、私は肯定されたと錯覚して思わず泣きました。

 「私はダメ人間です。生まれてきてすみません」と、主人公の葉蔵は自己卑下します。その上で太宰は、「だから世の中に適応できないし、心が純粋過ぎるから迎合もできないのだ」と思わせてくれた。人とつながれない自分に生きづらさを感じていた私は、それこそ本がボロボロになるまで読み返したものです。

18歳のころ(本人提供)

 そんな私でしたが高校3年生になると一転、「お笑いキャラ」としてもてはやされます。一度ウケたことに味をしめた私はこの役を演じることが止められなくなり、ついには変人の域に達しました。

 『自分を知るための哲学入門』(竹田青嗣著、ちくま学芸文庫)は、演じることに疲れ果て不登校ぎみになった時に、図書館で見つけた哲学の解説書です。

 人々がそれぞれ「正しい」と思うものを超えた、客観的な「正しさ」など、どこにもない。そう受け取り、私は「ほほう」と思いました。

 「つながりたいなら、まわりに合わせるべきだ」という集団の論理は、本当に「正しい」のか。「つながれない私だって間違いじゃなかった」と、心にネガティブな花を咲かせた私は、その後、世の中に適応しないダメ人間ぶりを加速させていきます。

 そんな精神性から抜け出せたのは、仏教の修行に入った25歳ころ。楽になるには、過剰すぎる「自意識」をまずは薄めてやることだと、ようやく気づくことになりました。

 (ライター・安里麻理子 写真家・吉永考宏)

◆おすすめは

 世の中に適応できない者にとって、「○○すべきだ」と促される毎日は苦しいものです。『道徳の系譜』(ニーチェ著、木場深定訳、岩波文庫・819円)は、社会を形成している圧倒的多数の「べき」が何から発生しているのか知りたくて、19歳のころ手にした哲学書です。

 そもそも「べき」とは、個々の「都合」から発生しており、決して普遍ではない。自分の「都合」に執着すれば人と衝突もしましょう。仏教はよりよく生きるための技術です。『いきなりはじめる仏教生活』(釈徹宗著、新潮文庫・620円)で「都合」を捨ててみては。楽になりますよ。

こいけ・りゅうのすけ  1978年生まれ。東京大教養学部卒。『考えない練習』など、執筆活動もさかん。正現寺(山口県)住職。
『人間失格』
著者:
太宰 治
出版社:
角川文庫
価格:
¥300(税込)
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『自分を知るための哲学入門』
著者:
竹田青嗣
出版社:
ちくま学芸文庫
価格:
¥777(税込)
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『道徳の系譜』
著者:
ニーチェ
出版社:
岩波文庫
価格:
¥819
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『いきなりはじめる仏教生活』
著者:
釈 徹宗
出版社:
新潮文庫
価格:
¥620(税込)
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