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佐藤優

何かを守ること 佐藤優

 人間には、個人でも、集団でも、守らなくてはならない事柄があります。何を守るかについては、様々な意見があります。国家や民族を守るために利己主義を克服せよと主張する人がいます。これに対して、個人の権利がきちんと守られないで、全体の利益ばかりを強調するとファシズムになってしまい、国民が不幸になると考える人もいます。また、命を投げ出してでも宗教や思想を守らなくてはならないという信念を持つ人もいます。何かを守るために相応の負担や犠牲が必要になります。

 泉鏡花は「夜叉(やしゃ)ケ池」(岩波文庫)でこの問題を扱っています。その昔、夜叉ケ池に竜神が封じ込められました。鐘楼守の萩原晃は、村人を守るために1日に3回鐘をつきます。竜神との間に「この鐘の鳴りますうちは、村里を水の底には沈められぬ」という約束があるからです。ある年、日照りが続いたので村人は雨を望み、萩原が鐘をつくのをやめると、竜神が暴れ出し、大雨が続き村は湖底に沈んでしまいます。何かを守るということは、合理的計算とは別次元の事柄であると泉鏡花は伝えているのだと思います。

 攻撃(アンチ)がないところで守りもありません。この構造がAKB48に表れています。濱野智史は『前田敦子はキリストを超えた――〈宗教〉としてのAKB48』(ちくま新書)で「関係性こそが絶対である。これはいいかえれば、アンチという対立する『関係性』をもっともかき集めたものこそが鋭く思想的に輝くということを意味してもいる」と指摘します。アンチが集中すればするほど前田敦子さんは守られる存在になっていったのです。

 戦争の中で人間の何かを守るという感情が研ぎ澄まされることを描いた傑作がロシアのノーベル賞作家ショーロホフの「人間の運命」(角川文庫)です。戦争で家族を失った主人公のアンドレイが、戦後路上生活をしている戦災孤児のヴァーニャを「俺は――お前の父さんだよ」とうそをついて保護します。人間が守らなくてはならないのは抽象的な思想や国家ではなく、具体的人間であるとこの作品は訴えます。

 (作家・元外務省主任分析官)

『夜叉ヶ池・天守物語』
著者:
泉 鏡花
出版社:
岩波文庫
価格:
¥420(税込)
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『前田敦子はキリストを超えた:〈宗教〉としてのAKB48』
著者:
濱野智史
出版社:
ちくま新書
価格:
¥777(税込)
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『人間の運命』
著者:
ショーロホフ
訳:
漆原隆子・米川正夫
出版社:
角川文庫
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¥500(税込)
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