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本田由紀

「死」と向き合い考える 本田由紀

 私はどんなふうに死ぬんだろう。死んだらどうなるんだろう。おそらくあなたも、これらの問いを一度は思い浮かべたことがあるでしょう。広井良典さんは『死生観を問いなおす』(ちくま新書)で、人間が「死」をどのように捉えてきたかを、「時間」というもうひとつのテーマと絡ませながら論じています。宗教、文学、科学理論、そしてマンガまで広く視野に入れた検討から浮かび上がるのは、「死」は終わりではなく、生者と死者は同じ共同体に属している、という理解です。

 このような考察は、私たちの死への不安を和らげてくれます。でも、生身の人間が死に向かってゆく過程には、やはりそれでは拭いきれない感情が重くまとわります。幸田文が父・幸田露伴をみとった日々を克明に記録した「父―その死―」(『父・こんなこと』新潮文庫所収)には、次のような一節があります。

 「ときどき短い間を、ほんとの父にかえってくれるとき、怒濤(どとう)のような悲しさとなつかしさが押しよせた。『おとうさん、わかりますか。』『文子だろ。』それは浸(し)み入るような悲しさであり、尊敬すべき父の姿だった」。この濃密な別れの呼び合いに、「死」の荘厳さがありありと表れています。

 ところが今、こうした尊厳ある悲しみを伴わないような死が、この社会にはあふれ始めています。「さっさと死ぬ」ことを良しとする軽い言葉が政治家の口から出るほどに、この社会は「死」の意味を見失い始めているのです。藤田孝典さんの『ひとりも殺させない』(堀之内出版)は、そのような現状に、ソーシャルワーカーとして真摯(しんし)に立ち向かう彼の活動を描いています。孤独と貧困の中で迎える餓死や凍死、そして自殺。それらは、苦しい人を見殺しにするような行政のしくみがもたらした人災です。最後の支えであるはずの生活保護も十分に機能していないどころか、いっそうの水準切り下げが粛々と進められています。

 「死」のあり方を決めてゆくのは私たち自身です。「死」をおろそかにすることは、すべての「生」をおろそかにすることに等しいのです。

 (東京大学教授〈教育社会学〉)

『ひとりも殺させない』
著者:
藤田孝典
出版社:
堀之内出版
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『父・こんなこと』
著者:
幸田文
出版社:
新潮文庫
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『死生観を問いなおす』
著者:
広井良典
出版社:
ちくま新書
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