どくしょ応援団

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十代、こんな本に出会った

村上龍の小説 バイオリニスト・葉加瀬太郎さん

葉加瀬太郎さん=写真家・吉永孝弘氏撮影

挑戦する心に火をつけた

 バイオリンが大好きな子どもでした。練習すれば難しい曲が弾けるようになる。コンクールで賞を取ると注目される。ゲームのステージをクリアしていく感覚で、そのワクワク感は何にも代えがたいものでした。

 ただ、そうはいってもふだんの練習では、同じフレーズを何百回も繰り返すことが大切で、これがものすごく退屈だった。そこで、譜面台に本を置いて、練習しながらこっそり読んでいたんです。楽譜は頭に入っていたので。

 小学生時代は、星新一に筒井康隆のSF。中学で五木寛之の青春文学、渡辺淳一のちょっとエッチな作品にも目が行き、高校生の時に村上龍です。衝撃でした。

 たまたま本屋で手にした『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫ほか)につづられていたのは、米軍基地の街を舞台に、ドラッグとセックスに明け暮れる若者たちの日々。ページをめくった瞬間、ヤバい! 大変なことになっている! もう、ドキドキしました。

小学校5年生のころの葉加瀬太郎さん=本人提供

 龍さんの作品はその後も、コインロッカーに遺棄された乳児をテーマにした『コインロッカー・ベイビーズ』(講談社文庫)、日本の恐るべき近未来を描いた問題作『愛と幻想のファシズム』(上・下、講談社文庫)などなど、くまなく読むようになって、読むたび「龍さんは文学で表現できるぎりぎりを試している!」と、大いに刺激された。

 このことは、バイオリンひと筋だった私の中の、何かを揺り動かしたようです。

 というのも、学生の自主的な活動がなかった高校に初の生徒会を作り、芸大に入ると1年生ながら学園祭の実行委員長を務め、「音楽じゃない」と決めつけていたロック、中でもプログレッシブロックに傾倒するようになったのですから。

 ポピュラーミュージックを目指そう。大学1年目にしてバンドを組み「クラシックだけ」の世界に決別した時も、背中を押してくれたのは龍さんの作品でした。

 今でも弱ったり、行き詰まったりした時に、あえて読みます。「あきらめるのか? 龍さんは挑戦しているぞ」。そして発奮する。龍さんは今も憧れの人であり、作品は私の「カンフル剤」なんです。

 (ライター・安里麻理子 写真家・吉永考宏)

◆おすすめは

 村上龍ファンとしては敬遠してきた村上春樹ですが、このところ響くんです。例えば『海辺のカフカ』(新潮文庫・上巻746円、下巻788円)は15歳の少年が家出する物語だけど、派手な冒険譚(たん)じゃない。むしろ、つらい時は心の部屋にこもればいいとささやかれている感じ。

 『1Q84』(BOOK1〜3・全6巻、新潮文庫・578〜662円)は、実際の社会事象をモチーフにしながらも別の物語に仕上げている。その文体の美しさ、無類の比喩は、極上の音楽を聴いているよう。

 表現も傾向も異なる2人ですが、「村上」作品から目が離せない私です。

はかせ・たろう  1968年、大阪府生まれ。4歳からバイオリンを始め、京都市立堀川高校音楽科から東京芸術大へ。代表作に「情熱大陸」。
『限りなく透明に近いブルー』
著者:
村上 龍
出版社:
講談社文庫
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¥420(税込)
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『新装版 コインロッカー・ベイビーズ』
著者:
村上 龍
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講談社文庫
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『愛と幻想のファシズム(上)』
著者:
村上 龍
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講談社文庫
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『海辺のカフカ(上)』
著者:
村上 龍
出版社:
新潮文庫
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『1Q84 BOOK1』
著者:
村上 龍
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新潮文庫
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