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本田由紀

切ない「偶像」拠り所に 本田由紀

 今回のテーマは「偶像」です。「偶像」と言えば頭に浮かぶのは、ハンマーでそれを叩(たた)き壊そうとしたニーチェです。

 彼は、19世紀終盤に書かれた『偶像の黄昏(たそがれ)』(ニーチェ全集14所収、ちくま学芸文庫、原佑訳)で、既存の道徳・宗教・制度のすべてから自らを解き放すことを試みました。ニーチェが抗(あらが)っていた「偶像」は、密度を増していた近代的な統治のしくみだったのではないかと思います。

 興味深いことに、その100年後の日本でも、ニーチェと似た主題が観察されます。『地方にこもる若者たち』(朝日新書)の中で、阿部真大さんは、1980年代の日本の若者の間に、学校や家族、企業などの「近代的なシステム」に抵抗し、「自分らしさ」を守りたいという意識が広く存在したことを、当時人気のあったJポップの歌詞から指摘しています。

 阿部さんによれば、そうした意識は、続く90年代から今世紀にかけて、「努力を通じて獲得される自分らしさ」を経由して「関係性の中で確認される自分らしさ」へ、さらには「社会と自分を変革する公共性」へと変容してきたといいます。

 ここで気がつくのは、このような若者の心性に形を与えてきたのが、Jポップアーティストという、ある種の「偶像」=アイドルだったという逆説です。

 現代日本では、個々の若者が自らの「偶像」を抱き、それを叩き壊すのではなく、拠(よ)り所にして生きるようになっているのです。

 そうした時代の突端に息づいている「偶像」の代表例が、ももいろクローバーZでしょう。安西信一『ももクロの美学』(廣済堂新書)には、次々に進化を遂げる「わけのわからない」存在としてのももクロへの賛美が詰まっています。

 この生々しい「偶像」は、過去の戦争認識に関してネット上で批判を浴びようとも、支持者にとって明らかにエネルギーの源となっています。

 巨大な暴力や憎悪で自分を支えるより、こうした切ない「偶像」の方が、よほど素敵(すてき)ではないでしょうか?

 (東京大学教授〈教育社会学〉)

『地方にこもる若者たち―都会と田舎の間に出現した新しい社会』
著者:
阿部 真大
出版社:
朝日新聞出版
価格:
¥798(税込)

『ももクロの美学 』
著者:
安西 信一
出版社:
廣済堂出版
価格:
¥899(税込)

『ニーチェ全集〈14〉偶像の黄昏 反キリスト者』
著者:
ニーチェ,フリードリッヒ
翻訳:
原 佑
出版社:
ちくま学芸文庫
価格:
¥1,680(税込)