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佐藤 優

ウクライナの火種は 佐藤優

 ウクライナ情勢が緊迫しています。これには、二つの事情があります。一つ目は、地政学的に重要なウクライナに対する米国・EUとロシアの影響力争い。もう一つは、19世紀からの「負の遺産」ともいえる国内の民族問題です。

 ウクライナが本格的な独立国家となったのは、ソ連が崩壊した1991年12月のことです。それまで大多数のロシア人とウクライナ人は、民族をあまり意識しないで生活していました。ただし、西部のガリツィア地方の人々は、第2次大戦終結までロシア帝国やソ連の領土になったことがなく、ウクライナ人としての意識を強く持っていました。

 その中には大戦中、民族独立を目指してナチス・ドイツに協力した人もいます。ロシアの義務教育9年生(日本の中学3年生)の教科書=『ロシアの歴史・下』(明石書店)所収=には「ドイツ軍の接近につれて(中略)赤軍と戦うための部隊編成が始まった。ウクライナではウクライナ民族主義者組織が、独自のウクライナ蜂起軍(UPA)を組織した」と記されています。

 ウクライナの日本大使を務めた黒川祐次氏も『物語 ウクライナの歴史』(中公新書)の中で「ソ連軍の中にはウクライナ人二〇〇万人が含まれていたし、ドイツ軍の中にも三○万人のウクライナ人が含まれており、同一民族が互いに敵味方になって戦った」と記しています。

 今回の政変で、その記憶がよみがえり、ウクライナ人の中に亀裂が生じつつあります。ウクライナ南部にあるクリミア自治共和国では、16日の住民投票で、ロシアへの帰属が決まりました。しかし、ここでも、スターリン時代に迫害を受けたクリミア・タタール人とロシア人との対立が、火種となりつつあります。

 英国の社会人類学者アーネスト・ゲルナーは『民族とナショナリズム』(岩波書店)で「(ナショナリズムは)深く内在化され、教育に依存し、国家の保護を受ける高文化に基礎を置いている」と指摘します。国家の政策によって今後ナショナリズムが過激化する。その危険性への警戒を怠ってはなりません。

  (作家・元外務省主任分析官)

ロシアの歴史・下
著者:
A・A ダニロフほか
出版社:
明石書店
価格:
¥7,140円(税込)

物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国
著者:
黒川 祐次
出版社:
中公新書
価格:
¥903円(税込)

民族とナショナリズム
著者:
アーネスト ゲルナー
出版社:
岩波書店
価格:
¥2,520(税込)