どくしょ応援団

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第2回どくしょ甲子園Let's 読書会、高校生!!受賞作発表!!

【最優秀賞】

◆栃木県立大田原高・斎藤チーム 齋藤和人さん、金井瞭太さん、中村龍徳さん、礒大輔さん、渡辺大地さん、石神大貴さん

■とりあげた本 芥川龍之介著「藪の中」

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〈ルポ 読書会〉

「答えなし」が「答え」の衝撃

 六月某日、大田原高校図書委員会が主催して、読書会が行われた。題材となった本は、芥川龍之介の「藪の中」である。混迷の中に終わった会から数日、この読書甲子園に出品を目指して三年生が中心となり、数名が集結した。ここからはその会議の様子である。

 読書会で得た感想を元に、全員がこの短編に対して仮説を持った状態で、二次会とも言える読書会は幕を開けた。

 この「藪の中」は、いわゆる、ミステリーである。とある侍が殺害され、その下手人について様々な証言を並べ立てる、証言一人称の群像劇形式である。

 だから、それぞれがまず、殺害の下手人についての予想を挙げることから始まった。

 「犯人は多襄(たじょう)丸だ」と、金井君と渡辺君がまず切り出した。それに続き、石神君と斎藤君が、「いや、自殺だ」と、中村君が「真砂(まさご)が犯人だ」と反論をする。

 なぜ、こうも意見が分かれてしまったのだろうか? それは、この本のある特殊な性質に由来する。

 この小説は、犯人を特定することができないのだ。

 事件の全貌も、証拠も、明確な事件のシーンさえ描写されず、関係者それぞれの主観が深く根ざした証言のみによって成り立ち、それらがほとんどと言っていいほど食い違っている。

 前回の会からして、ここまでは予想できていたので、とりあえず、意見が合致していた箇所をまとめ、一部の推測を交えて事件の流れを整理してみた。

 ――有名な盗人である多襄丸に「宝がある」と騙(だま)された侍、武弘は、藪の中で木に縛り付けられてしまう。そして、多襄丸は武弘の妻である真砂に夫が急病と嘘をつき、連れてきた彼女を武弘の目の前で手込めにしてしまう。(ここで武弘は死ぬ)真砂は隙をついて逃げたが、多襄丸は武弘の所持品を奪い、真砂の乗っていた馬で逃げ去った――。

 しかし、肝心の殺害箇所については情報が錯綜し、完全にまとめることは不可能であった。

 「どうしよう」誰かが弱音を吐いた。

 すぐに他の誰かが言った。「弱気になるな、絶対に犯人を見つけよう」

 意見が次々に飛び交った。この文章が怪しい、この人物とこの人物がつながっていそうで怪しい。幽霊となって証言している武弘はいったい誰に殺されたのか。数人の証言の中でどれが一番信用できるのだろうか。嘘をついているなら、なぜ嘘をついているのか。すぐに結論は出ると思われた。百年近く前の人が書いた小説だ、現代のインテリジェンスボーイが寄り集まって謎を解けない訳がない。

 と、楽観的に考えていた我々を、少しずつ陰が覆い始めた。幾ら議論を重ねても、決定的な答えが出てこない。信じられなかった。新世代のプライドは深く傷つけられていた。

 結局、誰も真実を特定することができないままに、やるせない疲労だけが残った。私たちは、芥川が作った「藪の中」に、軽視していた先人の罠(わな)にまんまとはめられてしまったのだ。

 結果、作者の見事な謀略により分断された私たちは、この深い藪から抜け出すということを諦めてしまった。


6人だから出せた「答え」

 約40人が集まった自由参加の「藪の中」読書会を経て、図書委員を中心に再び集結したのがメンバーの6人だ。うち5人が高3。「受験生だし、時間がなくて焦っていた」のに、それぞれの犯人予想はバラバラ。「あれ? 簡単に解けるはずだったのに」。納得できる答えが出ない。「結局、夏休み中、この宿題を抱えていました」

 そもそも、答えがないんじゃないか。作者に翻弄されたが、中途半端に終わらせたくない。それなら、そういう本であること自体をテーマにするしかない。

 この物語の世界には影絵が似合う。ただ一人の2年生・石神くんが得意のイラストを担当。作中の衣装を調べて回り、パソコンを駆使して描いた。応援団副団長と文芸部長を兼ねる斎藤くんの意見で、文章や色づかいも「笑って読んでもらえて、人の目を引く過激な」路線を目指した。

 情報と真実が交錯する「藪の中」と出会い、6人は答えのない本があることを知った。一人で読んだら、犯人を決めつけていたかもしれない。視野も広がり、複数で読む楽しみがわかったという。