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朝日新聞社 どくしょ甲子園 読書会を開いて、仲間と一緒に本を読み、みんなで語り合おう!その成果を1枚の作品「どくしょボード」で表現する高校生のコンクールです。

どくしょ甲子園 伝える深まる、本の世界 - let's 読書会、高校生!

第5回どくしょ甲子園 受賞作品

受賞作一覧 ※クリックすると作品をご覧いただけます


【最 優 秀 賞】   明治大学付属明治高校(東京都) 古和田チーム 伊藤計劃著 『ハーモニー』
【優 秀 賞】   東京成徳大学高校(東京都) 松岡チーム M・エンデ著 『モモ』

          滝川第二高校(兵庫県) 山本チーム O・ヘンリー著 『賢者の贈り物』
【奨 励 賞】   東京都立工芸高校 汲田チーム いしいしんじ著 『トリツカレ男』
          湘南白百合学園高校(神奈川県) 折橋チーム 芥川龍之介著 『蜜柑』
          石川県立金沢錦丘高校 南野チーム 本谷有希子著 『嵐のピクニック』
学校賞は、応募点数、作品のできばえ、取り上げた本の多様さなどを基に、主催者で選考しました。今回は次の2校に贈ります。
【学 校 賞】   相模女子大高等部(神奈川県) 大阪市立工芸高校



奨励賞: 東京都立工芸高校 汲田チーム
汲田日向子、宇津木咲重、岡部実生、川井ゆり子(いずれも2年)

 取り上げた本:いしいしんじ著『トリツカレ男』(新潮社)

    ▼ どくしょボード 第5回どくしょ甲子園: 奨励賞: 東京都立工芸高校 汲田チームの作品


▼ ルポ 読書会
「愛」にトリツカレた頭の中は?

奨励賞: 東京都立工芸高校 汲田チーム

 はじまりは私たちのクラスにある、くすんだ深緑の黒板だった。『トリツカレ男』について語ろう! と集まったものの、なかなか上手くいかない。頭には浮かんでいても言葉にすることは難しい。だから、私たちはそれぞれの考えを単語にして黒板に書いていくことでメンバーと自分の考えを共有したり、広げたりした。考えがまとまっていくにつれて、たくさんの疑問が浮かび上がってきた。愛、恋、絆、自己犠牲。それらの中でも、最も私たちを悩ませ、考えさせたのは、「愛するってどういうこと?」だった。大切な人に笑ってほしい。だから、頑張る。自分のできることはしてあげたい。『トリツカレ男』にはその思いが詰まっている。ジュゼッぺのペチカへの愛はとても純粋で深い。理屈とか、周りがどう思うとか、そういうものは一切気にせず、まっすぐに想っている。私たちにはまだ、よくわからないこともあるけれど、人をただただ一生懸命に、一途に愛することはそんなに簡単じゃないと思う。『トリツカレ男』には、飾らない本当の愛が書かれている。そんな私たちの思いをキャッチコピーに込めることに決めた。

 ボード作りをする上で大事にしたのは、構図とカラーだった。ジュゼッぺの頭の中の真ん中にはペチカがいる、という話し合いから、土台をジュゼッぺの頭の中にし、その中心にペチカを置いた。ペチカはジュゼッぺにとって最も強い存在である。それを強調するために立体で作った。また、あたたかみのある毛糸を使うことで彼女の優しさを表現した。彼女のカラーはとても悩んだ。明るいように見えるけれど、心に哀しみを抱えている。かといって真っ黒は重すぎる。だから、彼女の純粋な部分の白と、心の底から笑っていない様を表現するための灰色や紺。そして心のどん底の暗さを黒に込めた。

 読書会やボード作りをやっていくうちになんだか私たちはジュゼッぺやペチカと友達になったような気持ちになれて楽しかった。この時間が終わってしまうのが寂しい。そう思えたのは今まで考えたことがなかったことを仲間と深く語り合ったり、揉めながらも納得のいく作品が作れたからだろう。さて、どくしょ甲子園の次は何にトリツカレるか、今から楽しみだ。


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奨励賞: 湘南白百合学園高校(神奈川県) 折橋チーム
折橋慧、井上未梨、今野日菜美、成瀬天音(いずれも1年)

 取り上げた本:芥川龍之介『蜜柑』(岩波書店)

    ▼ どくしょボード 第5回どくしょ甲子園:奨励賞: 湘南白百合学園高校(神奈川県) 折橋チームの作品


▼ ルポ 読書会
乗って、歩いて小説を「体験」

奨励賞: 湘南白百合学園高校(神奈川県) 折橋チーム

 「蜜柑」は、作者の体験に基づいて書かれた短編小説だ。そのため、自分と主人公を重ね合わせ読みやすく、丁寧な描写によって場面もイメージしやすい。これが、私たちが「蜜柑」を選ぶ決め手になった。

 しかし、実際に読書会を開いてみると、この「イメージしやすさ」にはかなり苦しめられることになった。「蜜柑」は、主人公の心情描写が細かいため、その点に関しては全く議論の余地が無い。起承転結がはっきりとしているところが魅力だ。だからこそ、読書会で話し合うテーマを考えるのは、本当に大変だった。

 悩んだ末に、先ずはメンバー全員で感想を話し合った。すると、全員の感想に共通していたのは「私にもこんな経験がある」ということだった。車窓から美しい夕焼けを見たとき、誰かが席を譲るのを見たとき、疲れや嫌なことを少し忘れられた、という経験が全員にあった。そこで改めて主人公になりきってこの小説を読んでみたところ、美しい光景を目にしたからといって、嫌なことがあったという事実は変わらない、という結論を得た。しかし、その嫌なことから、少しでも目を逸らすことができたのもまた事実。そして、嫌なことを忘れさせてくれた一瞬に、本人にしか分からないほどだが、少しだけ心が軽くなっている。

 実際に横須賀駅から横須賀線に乗ってみたところ、隧道を出るときの光の変化に注目できることに気が付いた。そこで、細かい描写の効果を確認するために、視覚、聴覚、嗅覚それぞれの描写を拾い出していった。すると、視覚と嗅覚に関する描写が小説のクライマックスに向けて、パッと切り替わっていることが分かった。汽車が隧道を出るのに合わせ、電燈の光から暮色へ、煙の匂いは自然の匂いへ…。しかし、聴覚に関しては文中には書かれていない「汽車の走行音」が、始めから終りまでずっと変わらずにあるだろうと想像した。

 レイアウトは、「主人公の鬱々とした人生と鮮やかな人生が対比されていること」を効果的に表すために、写真を撮って、蜜柑以外の部分を白黒に加工する方法に決まった。休日、学校近くの公園で、子供たちの遊び場となっている小田急線の車両で撮影会を行った。メンバーの一人のお父さんにカメラの使い方を教わりながら、何枚も写真を撮った。その中から一番良いものを選び、加工方法も教わって、背景が完成した。文章は、作品の懐かしい雰囲気を表すために、原稿用紙に手書きの文字で書くことに決めた。

 横須賀へ行き、蜜柑の文学碑までの道を迷ったことや、公園で子供たちに囲まれながら撮影会をしたことは、どくしょ甲子園に参加していなかったら、絶対に経験しなかった。読書会や、レイアウトや文章を考えるとき、意見が衝突したり、誰も何のアイデアも浮かばなかったりと、困難も多かった。ある日、文章に行き詰って、険悪な雰囲気になりかけたので、皆で海に行った。夕日が海を暖かく染めているその光景が、私たちにとっての蜜柑となった。


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奨励賞: 石川県立金沢錦丘高校 南野チーム 
南野和、中田統康、宮本隆志(以上2年)、山口有芽子(1年)

 取り上げた本:本谷有希子著『嵐のピクニック』

    ▼ どくしょボード 第5回どくしょ甲子園優秀賞: 奨励賞: 渋谷教育学園渋谷高校 林チームの作品


▼ ルポ 読書会
僕たちの「嵐」はまだ続く

奨励賞: 渋谷教育学園渋谷高校 林チーム

 「嵐」の読書会第2幕が開いた。思い起こせば、第1幕は夏休み前のまだ暑い放課後。中高一貫校である僕達の学校の図書委員の有志約50人が集い、中学と高校合同の読書会を初めて開催したのだ。中学生、高校生が入り交じって、小グループに分かれて、最初はモジモジと自己紹介から始まり、短編集『嵐のピクニック』の一番最後の作品「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」ワールドに突入していった。我慢強い店員に感心する中学生あり、得体の知れない図々しい客にあきれる高校生あり、そして、「ネチャネチャドロドロ」という試着室から発する謎の怪音に想像力をかきたてられる人あり……。ここまで来ると、もう各所で小さな嵐が巻き起こっていた。そして、最後は全体で各グループの話題を紹介し合い、ワイワイガヤガヤの大嵐となっていた。

 そうして読書会の第1幕は閉じた。「嵐」の後の収穫は大きかった。しかし謎も多く残った。そこで、夏休みをはさんで、この嵐の読書会の第2幕に図書委員の有志4人が集まったのだ。お互いにこの短編集をもう一度、最初から最後まで読み終えて集った僕らは、1回目の読書会では気づかなかった、新たな謎の場面や非日常的な世界の描写について語り合うことになった。「試着室で服を選ぶということは、自分を見つめることではないか」という意見や、「その試着室のカーテンは、自分と周りの人々との境界線を示すのではないか」というような考えも飛び出して、初めは、意味不明の奇想天外な小説としか感じなかった僕らも、混乱の嵐に翻弄されながらも、少し明かりが見えてきた気分だった。鷲田清一さんの身体論を現代文の授業で読み終えた僕らには、ストンと腑に落ちた瞬間もあった。

 そして、この短編集の題名は何故「ピクニック」なのか? 何故わざわざ「嵐の」という修飾語がついているのか? 快晴での遠足はありふれていてドラマは起きないが、嵐の日だからこそ意外なものと出会えるかもしれない。現実ではあまりオススメはしないが……。

 また、順風満帆の人生ではなく、波瀾万丈もまた楽しいと感じる意見も出てきた。流動的な自分という塊をカーテンの中に抱えたままで、時にはグロテスクにもがいてみたり、エレガントに活躍する自分を夢想してみたり……。とにかく僕達の「嵐のピクニック」は更に続きそうな予感がしてきた。第3幕は、僕達一人ひとりの中でカーテンが開いたばかりなのだ。


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【どくしょ甲子園 過去の受賞作品】

【どくしょ甲子園 応募要項】

【→ 読書会へのアドバイス】

【→ どくしょボードのつくりかた】

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