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朝井まかてさん、木下昌輝さん 「時代小説にすてきなウソ」

 ともに大阪生まれで時代小説で活躍する作家、朝井まかてさんと木下昌輝(まさき)さんが、作家を志した頃の思い出や互いの作品を語り合った。関西ゆかりの作家らを囲む第11回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が大阪市の中之島フェスティバルタワーで開かれた。(司会・野波健祐)

対談する朝井まかてさん(右)と木下昌輝さん=大阪市北区

対談する朝井まかてさん(右)と木下昌輝さん=大阪市北区

 

 朝井さん、木下さんはともにライター出身。芥川賞作家の田辺聖子さんらを世に送り出した「大阪文学学校」(大阪市、略称・文校)へ通った経験があるなど、共通点が多い。

 文校では、それぞれが書いた原稿を互いに批評し合う「合評」に力を入れており、2人とも厳しく鍛えられたという。木下さんは「あなたは構想通りに書けているけど、構想通りにしか書けていない」と指摘され、それならばと事前に何も考えずに書いてみたら「ぼろカスに言われた」という。朝井さんも「がつん、がつんとやられた経験は本当によかった」と語った。

 朝井さんの『阿蘭陀(おらんだ)西鶴』(講談社・1728円)は、江戸時代の作家・井原西鶴を盲目の娘の視点から記した作品。朝井さんは、学生時代に読んだ西鶴の作品を久しぶりに引っ張り出し、はまったことが執筆のきっかけだったと明かした。ただ、直木賞を受賞した忙しさで家族に迷惑をかけた自身の経験から「物書きって、ほんとにはた迷惑やな」と感じ、迷惑を被る娘の視点で書いてみようと思ったという。「視覚情報を書かずに、西鶴とどう対話できるかは、一つのチャレンジだった」

 文校出身者同士、互いの作品を鋭く指摘しあう場面もあった。

 木下さんは朝井さんの作品を「視覚以外の触覚や味覚などを効果的に使い、勉強になった」とする一方、「落胆したところもあった」として、ライバルの近松門左衛門が西鶴の家に来て作品を批評するシーンを挙げた。「批判のやりとりは文校のノリだと思ったが、その後作品を褒めるのは斬り方が甘いのではないか」と指摘。朝井さんは「私の考える近松門左衛門の人物像はああいう人やった、ということ」と反論した。

 木下さんの『宇喜多の捨て嫁』(文芸春秋・1836円)は、家族を捨て石にしてでも勢力を広げた戦国大名・宇喜多直家の壮絶な生き様と苦悩を、様々な人々の視点から描いた連作短編。最初からストーリーの全体像を描いていたわけではなく、出たとこ勝負で面白いものをつくっていったといい、「史実を書くのも大事だが、それ以上に当時の空気感を描けるように頑張った」と話した。

 朝井さんは「宇喜多直家という主役が、話によって脇役にもなる。これは自分がやりたかったこと」と悔しがり、「言葉遣いが自由やな」とも感じたと話した。時代小説を書く時には、「結審」や「感情」など、近代的な言葉は出来るだけ使わないようにするという。「普通、この言葉は避けるだろうというものも使い、物語がうねるがままに書いてある」と評価する一方、通名に""を付けて強調している部分には、「注目しすぎちゃうから、あそこまでやらなくても」と指摘した。

 資料が少ない人や事件を描くときに、どうやってキャラクターを作ったり、話を膨らませたりするかについても話が及んだ。

 木下さんが「今と昔は価値観の違いがあり、そのまま事件や話を持ってきても通用しないことがある。そういう意味で、すてきなウソがつければいいんですけどね」と話すと、朝井さんは「ウソを書いて褒めてもらえるのは小説家だけやもんね、ありがたい」と話し、会場を沸かせた。

(渡義人)


阿蘭陀西鶴

阿蘭陀西鶴      
朝井まかて
[出版社] 講談社
[価 格] 1,728円

宇喜多の捨て嫁

宇喜多の捨て嫁
木下昌輝
[出版社] 文芸春秋
[価 格] 1,836円


 ▼プロフィール
 あさい・まかて  1959年生まれ。『恋歌(れんか)』で本屋が選ぶ時代小説大賞と直木賞、『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞を受賞。


 きのした・まさき  1974年生まれ。「宇喜多の捨て嫁」でオール読物新人賞。同作を収めた単行本が直木賞候補となり、高校生直木賞を受賞。


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