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葉室麟さん 男社会で意志貫いた淀殿

 直木賞作家の葉室麟さんを迎え、第12回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が今月上旬、大阪市の中之島フェスティバルタワーで開かれた。7人の作家による歴史小説の競作短編集『決戦!大坂城』などの作品を通して、葉室さんの歴史観や小説観が語られた。司会は講談社の担当編集者、塩見篤史さん。

作品について語る葉室麟さん=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

作品について語る葉室麟さん
=大阪市北区、滝沢美穂子撮影

 『決戦!大坂城』は伊東潤さんや冲方丁(うぶかたとう)さんら7作家が、豊臣秀頼や真田幸村らの視点から、「大坂の陣」を7様に描いた短編集。葉室さんは淀殿を取りあげた。小説やドラマでヒステリックに取りあげられがちな淀殿を、徳川家康との心理戦に冷静に対処する、凜(りん)とした女性として描いた。

 「男社会に立ち向かうシングルマザーの姿を重ね合わせた。家康は権力者として、ある種の完成形で、戦って強いし、政治も強いし、性格的にもしぶとい。そんな権力者のいる男社会のなかで、自分を曲げないで意志を持って戦う女性がいていいんじゃないか、と思って書きました」

 塩見さんが「歴史小説を書かれる作家さんのなかでも、特に女性を書くのが上手」とふると、会場の女性らもうなずいた。

 「もともと女性を書くのは下手というか、書けないと思っていたんです。うまいかどうか正直わからなくて、自分の妄想を膨らませて、こういう女性が好きだという自分なりのイメージを書いている感じです。ただ、僕は偉い女の人は苦手なので、現に淀殿がいたら苦手でしょうね」

 葉室さんは半年前から京都にも仕事場を持ち、出身地の福岡と行き来している。作家デビューから10年の節目に、新たな環境に飛び込んで行く気持ちだった。

 「もともとは、地方にいてこそ歴史の断面というか、歴史がわかるという考え方なんですが、歴史小説を書いていると京都は欠かせない。日本の歴史の根源的な所を、自分が書くものの中にしみこませたいと思い、月の半分くらいを過ごしています。道を歩いていると、やたらと歴史的な地名が現れるのに驚きます。本能寺とか六角とか……」

 ここで、塩見さんから「決戦!」シリーズの次作が「本能寺の変」を題材とすることが明らかにされた。葉室さんは誰を取りあげるのか。

『決戦!大坂城』葉室麟ほか著 [出版社] 講談社 [価 格] 1,728円

決戦!大坂城
葉室麟ほか著
[出版社] 講談社 [価格] 1,728円

 「まだ決まってはいませんが、織田信長を倒す側に回りたい。策略を巡らせるタイプよりじかに戦う方が好きなので、斎藤内蔵助(利三=明智光秀の重臣)とかですね。あと、今回が淀殿だったから、(織田信長の正室の)帰蝶(きちょう)(濃姫〈のうひめ〉)も考えています。彼女の人生はよくわからないところが多いですしね」

 葉室さんは地方紙記者などをへて、50歳を過ぎてから歴史・時代小説を書き始めた。会場から理由を問われ、こう答えた。

 「その年になると、過去に関心が向いてくる。自分たちがどこから来て、現在いるのはなぜかを知らないと、どこへ行こうとしているのかわからないという考え方になる。ただ、記者の文章と小説とは使う筋肉が真反対。記者の文章は変でもいいから情報を入れろと言われますが、小説は情報よりも自分の中に根ざしたものをどう伝えるか、だと思っています」

 最初の本が出たのは54歳のとき。直木賞は還暦を過ぎての受賞だ。デビューしたばかりのころ、まずは30冊書くと決めていた。昨年、その数を超え、いま40冊ほどになっている。「大坂の陣」を前にした家康と同様、残りの人生の時間を意識してきたという。

 「この仕事をしていると、もっと先へ行きたいと思います。そのためには仕事を積み重ねていかなくちゃいけない。先にいる自分に到達するために、今はこれくらいしておかなくては、と逆算する。それが30冊の意味です。生きている間にできることは、すべてやり切るつもりでいるんです」

(野波健祐)


 ▼プロフィール
 はむろ・りん  1951年、北九州市生まれ。西南学院大卒。地方紙記者などをへて、2005年に『乾山晩愁』で歴史文学賞を受け、作家デビュー。07年、『銀漢の賦』で松本清張賞、12年、『蜩(ひぐらし)ノ記』で直木賞。近作に『山月庵(さんげつあん)茶会記』『蒼天(そうてん)見ゆ』など。


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