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三浦しをんさん ほっこり、現代版「細雪」

 2年ぶりとなる小説『あの家に暮らす四人の女』を刊行した三浦しをんさんを招いてのトークイベントが、朝日新聞社主催で東京・丸の内の「マルノウチリーディングスタイル」であった。現代版『細雪』ともうたわれる今作だが、三浦ワールドは全開。創作秘話や谷崎論まで語った 。(聞き手・竹内誠人)

新刊について語る三浦しをんさん=東京都千代田区

新刊について語る三浦しをんさん
=東京都千代田区

 「ぶっ込んだ材料は結構、『細雪』だったんですけど、レンジでチンしてできあがった作品は、思いもかけない形に爆発しちゃって。おかしいですねぇ」

 舞台となる「あの家」は、終戦直後に建てられた古びた洋館。そこに、アラフォーで独身の主人公佐知、母親の鶴代、佐知と同い年の友人雪乃、雪乃の会社の後輩多恵美が暮らす。

 4姉妹を中心にした人間模様を描いた『細雪』とは登場人物の関係性は異なるが、設定や性格付けは結構似ている。ぼんくらな鶴代の父親によって資産が目減りしてしまった状況は、4姉妹の父親が家運を傾けてしまった『細雪』のそれに通じる。また、はっきりと意思を明らかにしようとしない三女雪子に代わって、影の薄い雪乃を登場させたり、恋に奔放な多恵美は、恋愛トラブルを起こす四女妙子を連想させたりする。

 でも、それが三浦さんの手にかかると、佐知と雪乃の生活を軸に、人とのつながりを温かな視点で描いたストーリーとなる。その秘密について、「違いがありつつも連帯していける方法って何だろうな。どういう関係だったらそういう風になれるかなって考えるのが好きだから」と話す。

 そして、4人は少しだけ三浦さんの手を離れ、物語の中で自由に動き出す。春から夏にかけての物語だが、当初は1年間の話にする予定だった。「四季折々の行事を4人に味わわせてあげたいなと思ったんです」と三浦さん。でも「この人たち、何しろのんびりしているんですわ。それで思ったように話が進まなくて」と笑顔を見せた。

 三浦さんのプライベートが垣間見えるのも面白い。三浦さんによると、「傘は持った?」「ご飯は食べたの?」ということばかり心配する鶴代のモデルは、自身の母親。「私の母はその二つしか聞かない。心配するところは、そこ?って思いますよね」

 作品中に、谷崎潤一郎をイメージした人物も盛り込んだ。それが、同じ敷地に住む謎の山田老人だ。鶴代と佐知から邪険に扱われつつも「お目付け役を任じ」る山田老人は、献身的に支えようとする。

『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社・1,620円)

あの家に暮らす四人の女
[出版社] 中央公論新社
[価格] 1,620円

 三浦さんは「タニジュン(谷崎潤一郎)先生は好ましい変態。先生の原動力は『萌(も)え』だったんじゃないかと。だから、先生も山田さんも邪険にされても『かえって萌えるのお~』って感じていると思う」

 そんなタニジュン先生について「小説の語り手にものすごく工夫を凝らす人」と分析する。今回の作品の着想も実は、「語り手の視点」を意識したところから出発したという。

 つまり、語り手が一人称の場合「一体誰に向かってそんなに冗舌に語っているのか」が問題となり、三人称ならば「登場人物の心を見通す『神の視点』は誰なのか」が気になってしまうというのだ。「私は人称オタク。ものすごく人工的で不自然な小説の『語り』をクリアしてみたかった」と三浦さん。

 小説が構造的に抱える課題に挑んだ実験的作品でもあるのだ。そして、この課題への挑戦が、ストーリーの展開と絶妙に絡みながらクライマックスを迎える。

 「夢見たっていいじゃない」「そんなおとぎ話があったっていいはずだ」。物語の最終盤、佐知は今の暮らしに続く将来にそんな希望を込める。三浦さんは「好きなこと、希望を持ちたいなと思えることをしつこくしつこく考え」たと明かす。

 「続編や番外編は?」。会場からの質問に、三浦さんは「語らないといけないのにまだ語られていないという場合、書きたいなと思うんですね」と答えた。

(塩原賢)


 ▼プロフィール
 みうら・しをん  76年生まれ。00年『格闘する者に○(まる)』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。


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