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坂井希久子さん 昔話と吉本に全てがある

 作家の坂井希久子さんを迎え、第13回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が9月中旬、大阪市の中之島フェスティバルタワーで開かれた。共に大阪を舞台にした人情味あふれる小説『ヒーローインタビュー』(ハルキ文庫・691円)、『泣いたらアカンで通天閣』について、坂井さんが創作の経緯をくわしく語った。

坂井希久子さん=大阪市北区、伊藤菜々子撮影

坂井希久子さん=大阪市北区
伊藤菜々子撮影

 格子柄の伊勢木綿の着物にブーツといういでたちで登壇した坂井さん。ワンピースを着るのと同じ感覚で、普段から和装を自由に楽しんでいるという。

 どくしょ会はまず、作家になるまでの経緯から話が始まった。きっかけは小学6年生のとき、夏休みの宿題の作文だった。

 「作文教育に力を入れていた学校で、宿題として書いた童話が県のコンクールで入選して有頂天になったんですね。で、バカだったんですねえ、12歳からずっと作家になると言い続けていたんです」

 進学は同志社女子大の日本語日本文学科(当時)へ。卒論は谷崎潤一郎だった。就職後は執筆時間をとれなかったが、ある日交通事故に遭い3カ月入院。病院で本腰を入れて書き始めたところ、改めて作家志望に火がつき、退院後に上京して小説教室に通った。今回の2作は、デビューから数年をへてあちこちから執筆依頼の声がかかり始めた時期に書かれている。

 まずは『ヒーローインタビュー』。10年間、たいして活躍しなかった阪神の代打男が現役最後のシーズンの終盤、奇跡を起こす。その瞬間に至る彼の姿を、彼を知る周りの人々の語りだけで描いた巧みな構成の野球小説だ。

 「版元の角川春樹社長に、いきなり『阪神の代打男の話を書いてみないか』と言われて。1ミリも野球を知らなかったのですが、その時ごちそうしていただいた鮎(あゆ)が本当に鮎かと思うくらいおいしくて、断れずに受けたんです」

 引き受けたはいいが自信はなかった。「出版界一、二を争う野球好き」と自称する編集者から、「野球は人間ドラマです」と言われ、恋愛ものにしようと思っていたが、長編として成り立つかどうか不安で仕方なかった。

『泣いたらアカンで通天閣』(祥伝社文庫・648円)

泣いたらアカンで通天閣
[出版社] 祥伝社文庫
[価格] 648円

 「ある日、デパートを歩いていたら、冒頭1ページの文章がぱっと思い浮かんだんです。急いでスマホにメモしましたけど、よくミュージシャンが歌詞やメロディーが降りてきたというのはこれか、と」

 一方、『泣いたらアカンで通天閣』は通天閣直下の商店街を舞台にした群像小説。マンガ『じゃりン子チエ』を思わせる父娘の人情喜劇だが、これまた意外なところに物語の端緒が転がっていた。

 「私の父というのが、いろんなトラブルを持ってくる、ろくでもない男で、その話を編集者としていたところから生まれたんです」

 作中の父親は「ノストラダムスの大予言」を信じ、娘を連れて山へ逃げるのだが、これは「実話」だという。実父は世界の滅亡を恐れ、和歌山の山奥に土地を買い、トラックに避難物資を詰め込んで、1999年7月にそなえた。京都にいた坂井さんは、「盆地やから沈む、帰ってこい」と声をかけられ、しぶしぶ行ってみると父親はトラックではなく、近くの温泉宿に逗留(とうりゅう)していた。

 「のんきなもんですよね。この作品がドラマ化されたとき、父親役が大杉漣(れん)さんだと報告したら、『まあまあやな』って。何さまやねんって思いませんか」

 思わぬ方向に物語が転がっていく坂井ワールドの一端を思わせる語りに、会場は終始笑いに包まれた。そんな坂井さん、発想の源についての質問には、こう答えた。

 「グリム童話とテレビアニメの『まんが日本昔ばなし』と吉本新喜劇に、物語のひな型は全部あると思っているんです。メタファーの宝庫であり、影のある昔ながらのお話であり、べたべたの人情も。だから、すごく単純に物語をとらえているんだと思います」

(野波健祐)

ヒーローインタビュー

ヒーローインタビュー      
[出版社] ハルキ文庫
[価 格] 691円

 


 ▼プロフィール
 さかい・きくこ  1977年、和歌山市生まれ。同志社女子大卒。会社員時代に作家を志して上京し、2008年、「男と女の腹の蟲(むし)」(「虫のいどころ」に改題)でオール読物新人賞を受けてデビュー。近作に『虹猫喫茶店』『ウィメンズマラソン』など。


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