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堂場瞬一さん 後世につなぐ現代の物語

 100作品目の小説『Killers』(上・下)を刊行した堂場瞬一さんを招いてのトークイベントが朝日新聞東京本社の読者ホールで開催された。新聞記者をしながら小説を書き始めた当時のことや創作の姿勢・舞台裏を語った。(聞き手・高津祐典)

堂場瞬一さん東京都中央区 岩下毅撮影

堂場瞬一さん=東京都中央区
岩下毅撮影

 「1カ月で1560枚を書いたんですが、記憶がない。自分で書いた感じではなく、何かが降りてきたような……」

 先月出版された堂場さんの100作目は、1964年の東京五輪直前から現代まで、世代をつないで描いた大作『Killers』。殺人者たちも追う警察も、ほぼ渋谷だけが舞台の小説だ。

 「当初考えていたのは街小説。過去の出来事が今にどうつながるか、歴史をさかのぼり、なじみのある渋谷をクロニクル(年代記)的に描こう」

 そう思ったのは、再び東京五輪の開催が決まったから。50年前、渋谷はメイン会場の玄関として街の顔を大きく変えた。現在、渋谷駅周辺は再び大きく変わりつつある。廃虚を壊すかのような光景を見て、記録としてとどめたいと考えたという。渋谷という定点から日本の大きな変容が見えてくる。

 「でもそれだけでは話が展開しないので殺人者を出したら、いつのまにか乗っ取られた」

 デビュー作は野球がテーマの『8年』(集英社文庫・702円)。新聞記者として多忙な30代前半、身体を壊して異動したのをきっかけに、大学時代に始めた小説書きを再開した。

 映像化もされた『アナザーフェイス』(文春文庫・713円)は一番売れた。男手で息子を育てる主人公の刑事・大友が魅力的だが、「ミステリーじゃなく、むしろ家族小説。現代的な家族の問題を面白い形で読んでもらいたいと、あらかじめかなり作り込んだ」。

『Killers』(講談社・上下各1944円)

『Killers』
[出版社] 講談社
[価格] 上下 各1,944円

 好きな海外ミステリーが中断して未完なのがストレスで、自作ではきちんと終わらせたシリーズが多い。惜しまれつつ完結した「刑事・鳴沢了」シリーズ(中公文庫)など、数年かけて書きつづる作品では主人公の立場が変わるのも当然。「そろそろ新しい環境で活躍させてあげようとか、意図的に変える場合も。最初から決めた通りだけで書いていたら、単なる作業になっちゃう」

 新聞記者と作家、両方の手法を熟知している人ならではの苦労もある。記者は自分が事実をきちんとつかんでいるかを考えればいいが、小説はそれを「どう脱輪させて読める形にするか。新聞よりはっきりと問題提起ができるからこそ、ファクトからの広がりに気をつけなければ」と言う。相手の言ったことを間違わないように書く姿勢が身についていて、「人を取材すると引っ張られちゃう」からモデルのための取材はしない。

 記者として取材したことを小説で書いたことは一度もないそうだ。「会社の金と名前で取材しているから、みんな話してくれる。それを僕の名前で出す小説に使うのはちょっとずるいような気がする」。律義でストイックな一面がうかがえる。

  それにしてもなぜ日本で警察小説がこれほど読まれるのか。「警察は組織オブ組織。決まり事も多いし、自由に動けない。誰でも上司とうまくいかないとか、部下が無能だとか、組織の摩擦を感じているから、読者はそこであがいている人を見たくなる」と見る。警察にはまだいろいろな部署があり「舞台として鉱脈がある」とも。警察小説自体、幅が広がり、読む側の解釈や感情移入もいっそう多様になっている。殺人者の理屈が繰り返し語られる『Killers』でもそうだ。

 「時代と関係なく、普遍的なことを書けるのが小説の魅力。そのときどきに起きていることを自分で解釈して書き、それが後世、時代の記録になる可能性もある。だから小説はいろんな書き方と読み方ができる。現代の物語には、現代に起きていることを取り入れつつ書いていきたい」

(岡恵里)

8年

8年
[出版社] 集英社文庫
[価 格] 702円

アナザーフェイス

アナザーフェイス
[出版社] 文春文庫
[価 格] 713円

堂場瞬一

堂場瞬一
[責任編集] 堂場瞬一
[出版社] 文藝別冊/KAWADE夢ムック
[価 格] 1,404円

 


 ▼プロフィール
 どうば・しゅんいち  1963年生まれ。86年、読売新聞社入社。00年、『8年』で小説すばる新人賞。記者をしつつ作家活動を続け、12年退社。警察・スポ-ツの両分野で幅広い世代に支持される。『アナザーフェイス』など映像化も多数。


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