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レアード・ハントさん、柴田元幸さん、柴崎友香さん 小説には"声"がある

 小説『優しい鬼』(朝日新聞出版)が邦訳された米国の作家レアード・ハントさんや翻訳した柴田元幸さん、大阪出身の作家柴崎友香さんを迎えた第14回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が先月末、大阪市の中之島フェスティバルタワーで開かれた。小説の持つ"声"、時や場所といった深い話題から大阪の街まで、話題は多岐にわたった。

レアード・ハントさん(左) 柴田元幸さん(中央) 柴崎友香さん(右) =いずれも大阪市北区、伊藤菜々子撮影

 「残酷なことが、素朴で柔らかい言葉で語られている」。柴崎さんはまず、『優しい鬼』の印象をそう語った。「そのギャップのせいで、物語がより深く心に刻まれる」

 『優しい鬼』は奴隷制度と深く関わる物語だ。舞台は南北戦争前の米国。14歳の少女ジニーが嫁いだ家には、2人の「娘」がいた。

 夫と妻、夫と娘たち、娘たちと妻。それぞれの間の、人格を踏みにじるような過酷な仕打ちが描かれる。ジニーはその土地を 「鬼たちの住む場所」と表現する。

 物語の語り手が何度も代わり、複数の人物の言葉によって、一つのストーリーが浮き彫りにされていく。「語り手が代わることで、読者は同じ出来事を別の角度から眺める。自分がいかに先入観に頼っていたかに気づかされる」と柴崎さん。

 そうして徐々に浮かび上がるのは、誰が善で誰が悪、と単純には割り切れない世界だ。だからジニーは「わたしも鬼のひとりだった」と語る。「奴隷制という複雑なテーマを、ただ一つの声で語りきるのは不可能だ。いろいろな声が物語のなかに入ってこなければ」とハントさん。

 柴田さんは「声が美しい小説だ」と評した。「美しい文章というのとは違う。たどたどしいのに、美しい。その声が伝わるといいなと念じつつ訳しました」

レアード・ハント著『優しい鬼』(柴田元幸訳、朝日新聞出版 1,944 円)

『優しい鬼』
レアード・ハント著・柴田元幸訳
[出版社] 朝日新聞出版
[価 格] 1,944 円

 開会前、ハントさんは柴崎さんに案内されて大阪の街を歩いた。ハントさんにとって、日本は特別な場所だという。「大学卒業後すぐ、熊谷で英語教師の仕事につきました」。最初の短編小説は、日本で書いたそうだ。「昼は英語を教え、夜にアパートのこたつで書きました」

 3人は来場者からの質問にも答えた。たとえば、読者という存在をどう考えるか、誰に向けて書いているのか、という質問。

 「最初に書き始めた頃、ノートに小さなキャラクターを描いて、読者をイメージしていた」とハントさん。「今は妻が第一の読者であり、批評家です」

 柴崎さんは「抽象的な誰かに書いている」という。「若い頃なら好きな人かもしれないし、年をとったら死んでしまった誰かかもしれないし、あるいはもっと別の存在かも。そんな誰かに向かって書いている気がする」

 翻訳家の柴田さんはどうか。「まだ英語を読めなくて、だけど世に出てる翻訳の大半は何か違うと生意気にも思っていた、そんな頃の自分に向けて訳しています」

 「米国の歴史や聖書の知識がないと、こういう小説は理解しにくいのでは」という質問もあった。

 ハントさんは「土を掘るといろいろな層がでてくるように、本も何度も読めば違う層が出てくる」と答えた。

 「アメリカ史という層も、キリスト教という層もある。でももっと深いところに、いろいろなことが書いてある。そんな本を書きたいと思っています」

(柏崎歓)


 ▼プロフィール
 Laird Hunt(レアード・ハント)
           1968年生まれ。作家。米デンバー大学教授。邦訳に『インディアナ、インディアナ』。


 しばた・もとゆき  1954年生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳家。
           著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にオースター『幽霊たち』など。


 しばさき・ともか  1973年生まれ。2000年『きょうのできごと』でデビュー。
           14年「春の庭」で芥川賞。他に『パノララ』など。


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