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西加奈子さん、リリー・フランキーさん 子どもぶらなくたって、いい

 直木賞受賞後初の長編『まく子』(福音館書店・1620円)を出版した作家・西加奈子さんと、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(新潮文庫・810円)の作家でもあるリリー・フランキーさんのトークイベント(朝日新聞社主催、福音館書店協力)が今月、朝日新聞東京本社読者ホールで開かれ、子どもの想像力などを語った。

西加奈子さん=岩下毅撮影

西加奈子さん=岩下毅撮影

◆ 性への興味・戸惑い「小説で代弁」

 『まく子』の主人公は小5の男の子、ひなびた温泉町が舞台だ。「西さんにしかない空気感、独特の物語のリズムがありますね」とリリーさん。「うれしい、リリーさんが隣でこんなこと言ってくれてる。この気持ちわかります?」

 2人の縁は10年以上前にさかのぼる。『あおい』で作家デビューした西さん。文学新人賞をもらってでなく、出版社に持ち込んだ原稿が本になった。編集者からリリー・フランキーさんに帯文をお願いしようと言われ、「うれしいけれど、信じてなかった」。

 ある日、届いた帯文は「居酒屋の領収書の裏に書いてくださっていて」。「その領収書、経理に回さなきゃ」と間髪入れずに返すリリーさんに会場は爆笑。「本当に泣きながら受け取りました」。つまり西さんの「大恩人」なのだ。

 『まく子』は子どもの「ぼく」が語る。西さんは書きながら、リリーさんの「大人観」を思い起こしたという。リリーさんの自伝的作品『東京タワー』は、筑豊のひなびた町で母親と暮らす子ども時代を描く。「しょぼくれたダメな大人が町にあふれていた。僕もこの主人公のように、そこで共存しながらも、そういう大人たちからちょっと距離を取っている子供だった」と『まく子』の世界に共感を示す。子どもの平坦(へいたん)な想像力で考える大人は「家族がいて、日曜にはネルシャツ着てソバでも打つ、みたい」で意外と堅実、とリリーさん。

 一方、「母親に自分が大人になっていくのを見せるのが悪い気がしていた」というリリーさんに、西さんも「無邪気に『子どもぶる』ところ、ありました」。男女ともに子どもが抱えている初恋や性への不安・忌避感は『まく子』の主題でもある。主人公の慧(さとし)は、母親とこの町にきたコズエを好きになり、触れたいという自分の気持ちや性器の反応にとまどう。


リリー・フランキーさん=岩下毅撮影

リリー・フランキーさん=岩下毅撮影

 小学生のリリーさんがひそかに好きだった女の子。触りに行く男子から「やめろよ」とかばいながら、ちょっと触りたい自分がいた。西さんも中学生の時、男子の性に関するうわさ話に、「キャー、気持ち悪い!」と叫んだことがあった。無垢(むく)でいるのが当然だった自分が悔しいから、やり直したい気持ちを「小説に代弁してもらった」。「汚いなんてことないよ、こんなに美しい感情はないんだよ、と言いたくて」書いた。

 渋谷区代官山に事務所があったときは街の「重鎮」だったが、現在の銀座では一番年下というリリーさんは、じたばたしたり、もてたがったりしている「じいさん」に、かわいさを感じるという。「リリーさんて、最後の悪い大人って感じ。まじめに純粋さを貫くと、こんなに社会から外れたところになる」。会社員なら役職に就いている年なのに、こんなに楽しそうじゃないか。西さんは、そう慧に言ってあげたいそうだ。

 終盤、リリーさんはいきなり司会者になり、「西さんに質問を。その一番前の女性」と指名。作家志望のファンの「書いたものを人に見せるのが怖いと思うことはないか」に、「怖いと思ったら、その作品を出したらアカンと思う。そう思う前に飛ぶ。書きたいものがあれば、何か言われても、自分の魂ってびくともしないんですよ」と答える西さんはきりっとすがすがしかった。

(岡恵里)



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まく子

『まく子』
[著 者] 西加奈子
[出版社] 福音館書店
[価 格] 1,680 円

あおい

『あおい』
[著 者] 西加奈子
[出版社] 小学館文庫
[価 格] 494 円

ふくわらい

『ふくわらい』
[著 者] 西加奈子
[出版社] 朝日文庫
[価 格] 626 円

サラバ! 上下

『サラバ! 上下』
[著 者] 西加奈子
[出版社] 小学館
[価 格] 各1,728 円

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

『東京タワー
 オカンとボクと、
 時々、オトン』

[著 者] リリー・フランキー
[出版社] 新潮文庫
[価 格] 810 円

 


 ▼プロフィール
 にし・かなこ
 1977年、テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。
 『通天閣』で織田作之助賞、『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、『サラバ!』で直木賞受賞。『きいろいゾウ』『円卓』は映画化も。


 リリー・フランキー 
 1963年、福岡県生まれ。イラストレーター、作家、俳優などとして活躍。
 映画「そして父になる」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『東京タワー』は200万部を超えるベストセラー。


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