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作家LIVE

 

井上荒野さん、角田光代さん、川上未映子さん はっとする1行、出会いたい

 人気作家として活躍する一方、「林芙美子文学賞」(北九州市主催)の選考委員を務める井上荒野さん、角田光代さん、川上未映子さんが「小説家はいつプロになるのか」と題して語るトークイベントが今月、東京・築地の浜離宮朝日小ホールで開かれた。司会は北九州市立文学館の館長、今川英子さん。

いのうえ・あれのさん=時津剛撮影

いのうえ あれのさん=時津剛撮影

◆ 奮闘の跡 小説に現れる

 3人はそれぞれ、デビュー当時の苦労を語った。井上さんは1989年、フェミナ賞を受賞してデビュー。だがその後、思うように書けない時期が続いたという。

 井上さんの父は、作家の故井上光晴さん。「自分が書きたいものというより、父だったらどう書くか、(父の担当編集者の)おじさんたちはどう書くと喜ぶか、と考えてしまって」。自分が書きたいように書いたと思える本を出すまで、12年かかった。

 角田さんは大学時代、文学賞に落選したことがきっかけで「若い人が書く部門がある」と出版社の人に紹介され、少女小説を書いていた時期があると話した。

 「自分には性が合わない世界で、本も売れなかった。最後に神社に呼び出されて、もう書かなくていいと言われて。そうだよなという気持ちと、これでもう一度(賞に)応募し直せるという気持ちだった」。新たに書いた作品で海燕(かいえん)新人文学賞を受賞し、本格的に作家の道を歩み始めた。

かくた・みつよさん=時津剛撮影

かくた みつよさん=時津剛撮影

 川上さんは「もともと小説家になろうとあまり考えたことがなかった」という。バンドで歌っていたらレコード会社の人に契約したいと言われ、上京。「一生懸命やりましたが、うまくいかずに契約が終わって」。だがその頃書いた散文詩が雑誌「ユリイカ」に掲載され、文筆業の道が開けた。

 3人はともに、林芙美子文学賞の選考委員を創設時から務めている。曲折を経て大きな賞を受け、活躍を続ける3人は、作家を目指す人たちの作品にどんな思いで向き合っているのか。

 「どうなんだろうなと思う作品は、書くことは好きなんだろうけど、読むことをあまりしてこなかったのではと思わせるものが多い。いい本を読むことがすごく大切」と川上さん。角田さんも学生時代の自分と重ねて「20歳くらいの頃は読んでいるものが限られているから、小説とはこんなものだと思ってしまうし、その中でしか作れない。そういう作品があると、もっと小説は広いですよ、惜しいなあ、と思います」。


かわかみ・みえこ=時津剛撮影

かわかみ みえこさん=時津剛撮影

 川上さんは選考の際、自分の好き嫌いにはとらわれないよう心掛けていると話した。「重視するのは、どんな言葉が使われて、どれくらい書くことに対して緊張しているか。思いみたいなものは一行に出ます」

 角田さんは「シチュエーションでもテーマでも、はっとする瞬間を見逃さないように気をつけている」という。「そして、わからないものは人に委ねる。私のほうがその小説より小さい場合もあるから、わからないからマイナスじゃなく、選考会で皆さんに聞く」

 井上さんは「その人が、なぜその小説を書かなくてはいけなかったのかが伝わってくるもの」を評価すると話した。

 「小説というのは、自分のなかにある自分がいちばん知りたくないことを、取り出そうとする作業だと思うんだよね。それをやろうという奮闘の跡が一行でも見えれば、それでいい」

(柏崎歓)


 ※詳細は、9月16日発売の「小説トリッパー」(朝日新聞出版)秋季号に掲載される予定です。


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そこへ行くな

『そこへ行くな』
[著 者] 井上荒野
[出版社] 集英社文庫
[価 格] 670 円

八日目の蝉

『八日目の蝉』
[著 者] 角田光代
[出版社] 中公文庫
[価 格] 637 円

愛の夢とか

『愛の夢とか』
[著 者] 川上未映子
[出版社] 講談社文庫
[価 格] 594 円

 

 ▼林芙美子文学賞
 『放浪記』『浮雲』などで知られる作家、林芙美子(1903~1951)にちなんで創設された。現在作品募集中の第3回から、受賞作は「小説トリッパー」に掲載される。賞の詳細は「北九州市立文学館」のホームページで。


 ▼プロフィール
 いのうえ・あれの 
 1961年生まれ。2008年、『切羽へ』で直木賞。11年、『そこへ行くな』で中央公論文芸賞。


 かくた・みつよ 
 1967年生まれ。2005年、『対岸の彼女』で直木賞。07年、『八日目の蝉』で中央公論文芸賞。


 かわかみ・みえこ 
 1976年生まれ。2008年「乳と卵」で芥川賞。13年『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞。


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