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門井慶喜さん 技で読ませる、計算ずくで

 作家の門井慶喜(よしのぶ)さんを迎えた第18回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が10月上旬、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。幕末の志士、坂本龍馬の妻おりょうが主人公の歴史小説『ゆけ、おりょう』を書いた経緯や、読者に興味を持ってもらうための執筆テクニックなどについて語った。

◆ 意外性・伏線・謎を一つ残す

門井慶喜さん

門井慶喜さん=小林一茂撮影

 司馬遼太郎の「竜馬がゆく」など、坂本龍馬を主人公にした小説は数あれど、その妻おりょう(1841~1906年)にスポットを当てた作品はあまりない。

 おりょうと言えば、京都・寺田屋で幕吏に気付き、裸のまま浴室から飛び出し龍馬を救った話や、日本初の新婚旅行に行ったことなど、有名なエピソードも多いが、あくまで脇役。門井さんは、大酒飲みで口が達者な自立した一人の女性としておりょうを描き、龍馬が暗殺された後の人生もしっかり書き込んだ。

 門井さんは、資料を読むなどして、抱いた印象が世間と違うとき、初めて小説にしたいと思うという。今回も龍馬とおりょうが旅した鹿児島の塩浸(しおびたし)温泉に行き、遠くを見つめる龍馬と、一歩下がって付き従うようなおりょうの銅像に違和感を抱いた。

 「『陰でお支え申します』みたいなイメージは、僕の書いたものとは全然違う。これまでは龍馬が死んだら、おりょうさんが生きている意味もそこで終わりという感じがあった。龍馬の従属物ではないおりょうさんを描いたつもり」

 デビューから10年。「ある程度の執筆技術の蓄積があり、ようやくおりょうさんという大物にとりかかることが出来た」といい、話は本に盛り込んだテクニックのことが中心に。

 最初の章では、龍馬ではなく、別の志士に好意を寄せるおりょうを描いた。「ほとんどの読者が龍馬の妻と知っているのに、いきなり『龍馬さん大好きです』では何の驚きもない。意外性があると、読者はその謎を解くために先を読んでくれる」

 伏線の重要さについても強調した。人間は、理解が出来ないものが突然来るといったん拒絶をしてしまう。「会社勤めでも何でも、トラブルの元になるのは『俺、それは聞いてない』という状況。これと一緒で、読者に心の準備をしてもらうことが、伏線を用意する一番の目的」。謎を一つ残すことも、先を読ませる工夫の一つという。

 また、歴史小説を書いていると、長州征伐や薩長同盟、龍馬がいた神戸海軍操練所など、どうしても説明が必要な場面が出てくる。歴史小説の宿命とも言えるが、「正直、ちょっとお勉強させられているような違和感が、僕はある」といい、出来るだけ会話の中にわからない言葉を入れ込み、その後で説明している。会話が出てくると読者は最後まで読んでくれる傾向があるといい、「人間にとって一番気になるのは他人。実生活がそうだから、小説の中でも人の会話は気になるものなんです」。

 このほかにも、読者の興味を誘う様々なテクニックを解説した門井さん。「そういう目で小説を読み返してもらうと、こいつは計算ばかりしている、計算高いやつだ、と思われることは確実です」と話し、会場を笑わせた。

 ただ、「最後の最後まで、技術の手綱をしっかりしめて書ききることが、僕にとっては大切なこと」とまとめた。

 会場からは、今回使った技術は、他の分野の小説にも応用出来るのか、との質問があった。門井さんは「技術のおおもとにあるのはコミュニケーション論。小説だけでなく人間関係にも応用出来るし、逆に言えば、普段の生活の中に小説の技術のヒントが転がっている」と話した。

(聞き手・野波健祐、文・渡義人)



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 ▼プロフィール
 かどい・よしのぶ 
 1971年、群馬県生まれ。同志社大卒。
 2003年にオール読物推理小説新人賞を受け、06年に美術探偵を主人公にしたミステリー『天才たちの値段』でデビュー。
評論『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で日本推理作家協会賞、『東京帝大叡古教授』『家康、江戸を建てる』で直木賞候補。


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