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森見登美彦さん 妄想つなぎ、全国を巡る

 作家の森見登美彦さんを迎えた第20回「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が3月中旬、大阪市北区の中之島フェスティバルタワーであった。京都・鞍馬(くらま)の火祭で消えた女性をめぐる物語『夜行』執筆の経緯や、作家になったきっかけなどを語った。

◆ 文章に目覚めた紙芝居作り

森見登美彦さん

森見登美彦さん=滝沢美穂子撮影

 京都を舞台に、タヌキの一家が活躍したり、さえない男子大学生が後輩の黒髪の乙女に恋したりする、ユーモラスで奇想に満ちた作品が人気の森見さん。

 今作は趣を変え、謎の連作銅版画「夜行」と、10年前に失踪した女性をめぐる怪談めいた物語。担当編集者と新しい連載について相談したのが、執筆のきっかけになったという。

 「だいぶ前に書いた『きつねのはなし』という作品以降、一冊まるまる不気味な話を書くチャンスがあまりなく、そろそろやってみようという話になった」

 舞台も、始まりこそ、京都・鞍馬だが、その後は尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡と全国を巡る。

 「担当編集者が鉄道好きで、僕もローカル線が好き。一緒にいろんなところに行っているので、心に残った場所を選んでみようと思った」。作中の連作銅版画の題名として登場した地名は、すべて行ったことのある場所だという。

 単純に好きな町を選んだわけではなく、何度も繰り返し訪ねた結果、自分の妄想が刺激され、いろいろ考えさせられる場所を舞台にした。

 「ぱっと行っただけでは、自分にとってその町の何が大事なのかわからないので、何度も行ってふるいにかけた」。天竜峡の話も、「さすがにもういいかな」というほど乗ったJR飯田線の鈍行に再び乗り、半日揺られて作品をイメージした。

『夜行』(小学館、1,512円)

『夜行』(小学館、1,512円)

 ただ、作品の最後はやはり京都に戻る。「不思議なことが許容されやすいのは、やっぱり京都」。京都を繰り返し舞台として書くのも、学生時代からずっといて、どこが大事か分かっているからと説明した。

 今回の作品は「自分の妄想をつなぎ合わせて、ある種の不安みたいなものをつくれればそれでいい、というスタンス」だったといい、「ストーリー的にきれいにオチがつくとか、そういうことを求めていなかった」。このため、直木賞や本屋大賞の候補に選ばれたことは意外だったという。

 会場からは、「『夜行』は不可解なことが起こりすぎる。どこに注目すれば読み解けるのか」と質問があったが、森見さんは「べつに読み解かなくても。ミステリーでは回答がちゃんとあるかどうかに主眼があるが、僕の場合は謎とか変な現象が起きて、不安を呼び起こされるという方に主眼がある」と話した。

 また、参加者から小説家になった理由についての質問も。森見さんは、小学3年の時に友達と紙芝居をつくり、文章を書くのが楽しかったのがきっかけだったと明かした。ノーベル賞作家、ウィリアム・フォークナーが好きだった母親も原稿用紙を買ってくれ、励ましてくれたという。フォークナーは、ある土地を舞台にした一連の物語をつくり、同じ人物を再登場させる「ヨクナパトーファ・サーガ」と呼ばれる作品群で知られ、突然「あんたもサーガを書け」と言われたこともあった。

 森見さんの作品にも過去の作品の人物が登場することがあり、夜行でも画廊の主人が再登場する。ただ、サーガを書こうとしているわけではないといい、「同じような立ち位置の人物をまたつくるのも白々しい、と思って」。会場から「なぜ森見さんの作品は、どれもつながっているのでしょうか」と聞かれると、「省エネですね」と答え、笑わせていた。

(聞き手・野波健祐、文・渡義人)



 ▼プロフィール
 もりみ・とみひこ 
 1979年、奈良県生駒市生まれ。奈良市在住。京大農学部卒、同大学院修士課程修了。
 2003年に『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。
 07年、『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、10年の『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞。『夜行』は直木賞候補になった。


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