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朝日新聞社: 10代の読書会 オーサービジット校外編
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「漱石の真意たどろう」 姜尚中さんと読む『こころ』


 10代のための読書会「オーサー・ビジット校外編」の17回目「姜尚中さんと読む漱石の『こころ』」(朝日新聞社、出版文化産業振興財団主催)が、東京・神田神保町の東京堂ホールで開かれました。小5~大学2年の51人が、聖学院大学学長の姜さんと一緒に、今も輝き続ける名作の世界に分け入りました。


参加者に親しく語りかける姜尚中さん

参加者に親しく語りかける姜尚中さん

 『こころ』は、明治末を舞台に、若き書生「私」と、その私が思想や言葉に心酔した「先生」との世代や血縁を超えた交流、そして先生が抱える闇を、私のモノローグと先生の遺書で描いている。

 中学生の班。人を遠ざけ、仕事もしない「高等遊民」である先生の過去を知りたがる私に、先生が「あなたは本当に真面目なんですか」「腹の底から真面目ですか」と問い詰める場面を一人が挙げ、「この『真面目』ってどういう意味なんだろ」と問いかけた。「今はちょっと陰口っぽく使うよね」「ノリが悪い、とか」。自分たちが日常使うニュアンスとは異なる「真面目」の意味に首をひねり、「一生懸命っていうことかな」「自分が知らないことも受け入れる態度を指すのでは」などと、文脈をたどりながら、文豪がこの言葉に込めた真意を探っていく。

 姜さんは中盤、いくつかの問いを投げた。そのひとつが「なぜ先生は自殺を選んだのか。遺書に書かれた『殉死』の意味は」。班ごとに話し合いが始まった。

 平成生まれには「殉死」はどう響くのか。「自殺を美化するため」「死ぬきっかけがほしかった先生が、明治天皇崩御のタイミングに乗っかった」という現代っ子らしいドライな見方も。大学生からは、「イデオロギーや価値観が変わった世の中に孤独や違和感を感じた先生が、新しい時代はさらに生きづらくなるだろうと感じ、明治という時代に殉じて死んだのでは」と、時代背景や社会情勢から読み解いた解釈が示された。

 「みんな読みが深い。刺激になるなぁ」と感慨深げな姜さん。そして、自らの解釈をこう述べた。

 「殉死は、基本的にその死を選んだ個人の名や意志が後に残る。ところが『こころ』が書かれた100年前は、第1次世界大戦が勃発して大量殺戮(さつりく)が始まり、死が数字で語られるようになった時代。死者が無名化、匿名化される危うい時代の到来を感じ、漱石はあえて殉死という、当時でも古い表現を持ち出したのではないか」

 深い洞察に聴き入る参加者たち。後半、質疑の時間を設けると次々と手が挙がり、あっという間にタイムアップ。すると、誰よりも名残惜しそうな姜さんが呼びかけた。「時間がある人は茶話会をしないか?」。半数以上が居残って、死への恐怖をどう克服したらいいのか、緊張する近隣国との関係に若い自分たちはどう向き合うべきか、といった悩みや質問を姜さんにぶつけた。「私」が「先生」に真っすぐに疑問を投げかける物語の場面がだぶって見えた。

(ライター・中津海麻子 写真家・御堂義乗)


読書会を終えて

 鈴木彩花さん(高2)
 「ずっと同じ仲間で育つ環境だったので、初対面の人とも本の話で盛り上がれて、本当に楽しかった」

 高橋健太郎さん(大学1年)
 「姜さんの『魂の相続』という言葉に、東日本大震災で亡くなった祖父の存在、思いを受け継ぎたいと思いました」


姜尚中さんの本

心の力

『心の力』               
[出版社]集英社新書
[価 格]778円

心

『心』
[出版社]集英社
[価 格]1,296円


母

『母』                 
[出版社]集英社文庫
[価 格]616円

悩む力

『悩む力』
[出版社]集英社新書
[価 格]734円


生と死についてわたしが思うこと

『生と死についてわたしが思うこと』
[出版社]朝日文庫
[価 格]583円

 

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