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朝日新聞社: 10代の読書会 オーサービジット校外編
辻村深月さんの記事へ

 

辻村さんからのグループの共同作業として出されたサプライズ課題は、

「『ハケンアニメ!』のサイドストーリーを考えよう」

 

辻村さんが自ら書いたサプライズ課題

・登場人物を最低2人以上出すこと。
・話の中で何かひとつ"事件"か"ハプニング"を起こすこと(小さな事件でもOK!)
(登場人物、設定、ハプニングを上げるだけでもOK)


グループごとに書いてまとめたサプライズ課題
というもの。
読書会の最中に辻村さん自身からサプライズ課題が発表されると、参加者から思わず「ええーっ?!」「できるかなあ?」、悲鳴のような声も。与えられた時間は約30分。15分を過ぎてもほとんどのグループが書き出すこともできない状態だ。休憩時間も惜しみ、ぎりぎりまで皆で課題に取り組んだそれぞれの発表は――。


*【  】内がそれぞれが書いたサイドストーリー

Aグループ

 【王子と有科の3年後
  次回作を撮り始める。またもや王子が脱走、置き手紙、王子はハワイにいた。有科、一人で追いかける。王子が告白(王子らしい告白の仕方)。二人で帰国。仕事終了後、二人で手をつないで帰る。最終的に結婚。】


辻村さん

 そのままハワイ挙式しちゃえばいいのに! 王子が逃げても懲りずに有科が受け止める、そういう関係性をちゃんと分かってくれていて、この本を書いて良かったなあと思いました。


Bグループ

 【登場人物:行城さん、王子さん
  時期:"次回作"を作っているころ、ファインガーデンにて
  ハプニング:
  (1) 作品制作の打ち合わせで、打ち合わせのメンバーの誰かの名前を行城さんが知らなくて、間違える。
  (2) 自分の子供に親だと認識してもらえない(仕事が忙しくて)。
  ・王子さんと和奈さんが行城さんの仕事をフォロー。
  ・行城さんが子供に"お父さん"と認識され、一緒に遊んだりする。
  ・王子さんが行城さんの変化に気づく。→ アニメ業界に知れ渡る。「よかったな」とメールも。】


辻村さん

 行城に子供がいるのがすばらしい、自由な発想をしてくれてうれしいです。アニメ業界の人に聞くと確かに忙しくて、自分の子供に、たとえば「行城さん、また来てね」と言われてしまうような状況みたいですよ。


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Cグループ


 【時刻は23時37分。タイムリミットは残り23分。ケーキが完成してから2時間45分。
  ――なぜ、やつは帰って来ないんだ。
  すっかり味の無くなったワインがグラスの中でまるで私の心を表すように小刻みに揺れている。
  グラスを伝った水滴がフォークを濡らしている。
  ――帰ってくる、って言ったのに。
  ピンポーン。
  その時、マンションのベルが鳴った。
  ――やっぱり帰って来てくれた! 忘れてなかったんだね。
  私はドアを勢いよく開け放った。そして、両手を広げて外へ飛び出す。
  「お帰り! あな……」
  そこに立っていたのは緑と黒の帽子を被り、箱を持った男の人。
  帽子には黒い鬼のような形相の猫……。
  「クロネコでーす。印鑑、お願いします。」
  私は震える手で"行城"の印鑑を押した。
  箱を受け取り、フラフラとリビングへと戻る。
  まさか、クロネコなんかにだまされるなんて!
  タイムリミットはあと13分……。
  ――もう終わってしまうのね……、私の20代最後の……。
  ピンポーン。
  ――またクロネコヤマトなの!? もうだまされないわ!
  「ただいまー」
  玄関から聞こえたのはあの男の声。もう一度、最後の希望を胸に玄関へと走って行く。
  「お誕生日おめでとう。間に合った?」
  時刻は23時58分。私の彼の手には花束が握られていた。
  「箱、もう見ちゃった?」
  「……箱?」
  ――もしかしてさっきのクロネコヤマトの箱のこと!?
  「あ、まだだった? 早く開けてごらん。」
  私は彼の言うままに箱を開ける。
  するとそこには超高級コーヒーメーカーが!
  「まったく、帰ってくるの遅いじゃない!?」
  私は少し笑ってしまった。これだからこの人は
  ……いつもありがとう。】


辻村さん

 すごい! まず最初に誰の話だろうって、引きつけられます。そういう「小説的」にしてくれたことの意味があると思いました。行城だから、プレゼントはバカラのグラスのような高級品かと思ったら、高級は高級でも家電というところが夫婦らしくていいですね。


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Dグループ

 【王子と斎藤さんの九年前(クリスマスじゃないです)
  斎藤さん→カフェでバイト
  王子  →ヨスガで殺させてもらえず→落ち込みカフェに逃げる
  斎藤さんが王子の原稿にオレンジジュースをこぼす。
  怒ると思いきや……。自分の質問に答えて欲しいと言う。
  「納得がいかなくても、自分で前にすすめなきゃいけない時、君ならどうする?」と聞く。
  斎藤さんが答える。
 その時(九年前)あっていたが、互いに覚えていないが、今は同じアニメ業界にいる。 】


辻村さん

 Dグループはさっき、飲み物こぼしちゃってましたよね? 大丈夫かなと思っていたら、今日のその設定が「ハプニング」になっている! すごいなと。自分でも今書いている小説に、その時期だから、活かされる設定ってあります。また昔出合っていたけど、いまは気づいていないという設定は私も大好きなので、うれしいです。


Eグループ

 【登場人物:高校生の行城・行城妻
  ハプニング:行城妻が熱心なアニメファンとは知らず、行城がアニメファンをバカにする→行城妻、激怒!

      今よりさらにアニメに関心なし。    →→→→片思い→→→→      綺麗
                     行城             行城妻
         オタクへの理解がない。     ←←気になる存在←←←      学年一の美女

  ポイント:タジタジの行城を見れる!!(人間らしい行城) 】


辻村さん

 中高生だけあって、恋愛が身近な感じでいいですね。聞いていてオチをつけるとしたら、「アニメをバカにしてごめん。おれ、プロデューサーになるよ!」


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Fグループ

 【登場人物:太陽、7年後。
  太陽は(小学生から塾にかよっていたので)その後進学して、中学から寮にいる。団地には時々帰ってくる。
  高校卒業を前に進路に迷っている。(ロボットを買ってもらったのがうれしかったというエピソードがあるので)ロボットを創る人になりたい、大学ではなく専門学校、安定した道でない方を選びたいが、両親は大学に行って欲しいと思っている。瞳に会いに行く。瞳が引き出しを開けた拍子に一枚の写真が落ちてくる。河永祭りの時の王子監督と瞳のトークショーの写真。自分の大好きなサバクのトークショーになぜ出てるんだろう?
  斎藤さんと名字しか知らなかった自分の大好きなおねえさんがじつはサバクの監督だった。だからサバクを薦めてくれたんだ。太陽はロボットを創る道に進もうと決断する。】


辻村さん

 本を読んだりアニメを見たりすると、何か創る人になりたいとあこがれを持ちますよね。たとえば私はドラえもんが好きで、漫画家や作家を考えましたが、ドラえもんを見て工学科でロボット研究に進んだ人もいるんですね。『サバク』が好きだからロボットを創りたい、というエピソードは、いまから進路を決めようとする皆さんだからこそ出てくる発想で、私にはできないと思いました。


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Gグループ

 【登場人物:今から15年後の高橋プロデューサー

  どうして、アニメ業界にはいったんですか。
  という質問をされる時がある。
  それはもちろんアニメが好きだからに決まってるじゃないですか。
  高橋の答えは決まっている。
  けれど、心の中では違う答えを叫んでいる。アニメが自分を変えてくれたから。勉強だけが、この世界のすべてじゃないと気づかせてもらったから。追いかけたい人が、いるから――。

  「そんな終わり方じゃ、ファンが納得しませんよ!」
  アニメ制作会社のオフィス・ラグーンのある一室。閉めきられたドアも意味を成さないほど、二人の口論する声が響いていた。
  斎藤瞳監督の新アニメ『キャッツ・トリップ』。普通で何の取り柄もない小学生の男の子が、飼い猫に導かれて異世界にトリップするという、冒険アニメだ。第1回を放送した時から反響は大きく、シリーズも中盤に差しかかり、ファンの間では最終回が今から楽しみにされている。
  今、高橋と瞳が揉めているのは、その最終話の構成についてだ。
  あくまでハッピーエンドで終わらせたい瞳に対して、高橋はそれではファンが納得しないだろう、と反対している。
  「私は、このアニメが放送される前から、ハッピーエンドで終わらせようと決めていたんです」
  「そんなの聞いてませんって!」
  主人公の男の子が、現実世界に戻ってこられるか、それとも異世界で一生暮らしていくのか。
  「今回は、『サバク』とは違って、どうなったのかをはっきりさせたいんです」
  「でもだからって、異世界の仲間を見捨てて戻っちゃうなんて、そんなの、耐えられません!」
  「あなたが耐えられるか耐えられないかじゃなくて、アニメとして最高なものかどうかが大事なんです」
  そんな口論が延々と続いて、今日で3日目だ。そろそろタイムリミットが近づいてきている。
  → 結局、瞳の意見通り、ハッピーエンドに。
  → 仲直り
  やっぱりすごい。この人は。
  瞳の後ろ姿を見ながら思う。すると、笑顔で瞳が振り返った。
  ――「いくよ、太陽くん」
米『キャッツ・トリップ』は2人の絆であるザクロをイメージしています!】


辻村さん

 すごーい、私が書いたみたい! 『ハケンアニメ!』は3章とも「どうして、アニメ業界に入ったんですか」から始まるのですが、それに気づいてくれてうれしいです。『キャッツ・トリップ』という、作内アニメを作ってくださったのがすばらしい。最後に「太陽くん」と呼びかけるのも私が好きそうな書き方ですね。


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Hグループ

 【3年前の春、葵と王子の出会い
  主人公:声優の葵
  王子が葵の出演するアニメについて、スタッフと
  「あの監督は葵の使い方が良くない」
  と話している。
  葵は王子の言葉を聞き取れず、「……葵が……良くない」と葵の批判に聞こえてしまい怒る、一人で泣く。
  泣いているところに王子が通りかかる。
  王子の真意を知る。
  「大丈夫です、見ててください!」
  葵が演技をがんばっていることを王子はわかって、二人の交流が続いていく。】


辻村さん

 この本を書き始めた時はもっと章立てを多くするつもりで、その章の主人公の一人が葵でした。その葵の物語が聞けてうれしい。実際はこう言ったのにこう聞こえたというのは私もよく使う方法で、誤解から入って打ち解けるというのが魅力的ですね。


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Iグループ

 【登場人物:王子と有科
  「数年ごしのプロポーズ」
  王子が有科が引きこもったことを知る。
  王子は有科の家に行く。ドアを開けてくれない。
  宗森に助けを求める。宗森は王子に「根気強く!!」
  王子が有科に言う。「また一緒にアニメを作ろう。」
  有科はドアを開ける。王子「おかえり、有科さん。」
  理由を聞く。迫水により王子からのプロポーズに気づく。プロポーズされていたことが恥ずかしい。
  有科「あのときの言葉、そういう意味だったの?」
  王子呆れる。「今さら気づいたの?」「で?」   有科が「王子さんこそ気づいてないんですか?」】


辻村さん

 大人の終わり方~! かわいいし、ぐっときます。王子を相手にしている有科が大変と思っていたけれど、有科を相手にしている王子も大変なんだと、こうして話にしてもらって実感しました。


Jグループ

 【主人公:15年後の太陽(25歳)=アニメ監督
  登場人物:斎藤瞳(39歳)=太陽のあこがれ。
       行城=太陽のプロデューサー、「鬼の行城」
  初の監督を務める太陽はプロデューサーである行城にしごかれる。すっかり意気消沈し、自信をなくした太陽はアニメ業界に入るきっかけになった、あこがれである瞳に助言を求める。会話の中で"鬼の行城"の意外な一面を知り、行城とアニメを創っていくことを決意する。 】


辻村さん

 アニメ業界は定年がない、フリーランスな職場なんですね。行城もずっとこの業界にいて、若い時は誰にでも笑顔でへらへらしていた行城が、いまは"鬼の行城"と言われ、それを聞いた太陽くんが「嘘だろ」と思う……、そんな場面が書きたくなるような気持ちになりました。


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サプライズ課題全体の辻村さんの感想

 全部面白かった! 全部パクりたいくらい! 自分に引きつけて、登場人物を生きている人物のように考えてくれました。実際にセリフにしたグループもありましたが、言葉を大事にしてくれているのがわかりました。今日一番楽しかったのは自分だという自覚があります!

 


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