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朝日新聞社: 10代の読書会 オーサービジット校外編
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奥深い翻訳、言葉の魔法 松岡佑子さん


 10代のための読書会「オーサー・ビジット校外編」(主催・朝日新聞社、出版文化産業振興財団)の第24回が、「ハリー・ポッター」シリーズの翻訳者で、版元・静山社会長の松岡佑子さんを迎え、東京都千代田区・東京堂ホールで開かれました。シリーズの最新刊『ハリー・ポッターと呪いの子』を読んできた小5~大学2年までの参加者44人は、世代別の班に分かれ、読書会に臨みました。


参加者と話す松岡さん

参加者と話す松岡さん

 「実は昨日から声が出なくなってしまって。でも、あめをなめたら、だいぶ声が出てきました。軽い『声無し病』だったんですね」

 松岡さんはあいさつのスピーチから魔法のように新しい言葉を作り出した。「声無し病」なんて、まるでホグワーツ魔法魔術学校ではやりそうな病気の名前だ。

 「ハリー・ポッター」をきっかけに英語が好きになった人も多い今回の読書会。参加者には事前に課題図書『ハリー・ポッターと呪いの子』で印象に残る文章や場面を書き出すこと、冒頭の英文3行を翻訳する宿題が出されていた。

 英語で話し合うグループを含め10班に分かれ、翻訳作業で感じた疑問と『呪いの子』の魅力を話し合う。みんな熱烈な「ハリー・ポッター」のファン。すぐに会話は盛り上がった。松岡さんもテーブルを回り、考え方のヒントを与えてくれる。

 「アルバスが自分のやりたいことをやり通すところがよかった」と話すのは女子中学生。松岡さんは「でも結果的には間違っていたよね。それでよかったと思う? あなたなら親を心配させても信念を貫ける?」とさらに深く考えさせられる疑問を投げかけてくる。

『ハリー・ポッターと呪いの子』第一部・第二部〈特別リハーサル版〉(J.K.ローリング、J.ティファニー、J.ソーン著/J.ソーン舞台脚本/松岡佑子訳。静山社・1,944円)

『ハリー・ポッターと呪いの子』
第一部・第二部〈特別リハーサル版〉

J.K.ローリング、J.ティファニー、J.ソーン著/J.ソーン舞台脚本/松岡佑子訳。静山社 1,944円

 「rattleを調べたら、ガタガタもあれば、ガラガラと書いてある辞書もあって迷いました」と話す女子大学生には、「訳し方もいろいろ。擬音語を使うこともあれば、あえて使わないことも。正解はないの。どの言葉を選ぶかには物語の雰囲気や日本語として自然に読めるかどうかも関係するの」と翻訳の奥深さを教えてくれた。

 休憩後の第2部は発表タイム。どの参加者も感じていたのは、文芸作品を翻訳する難しさ。試験の和訳とは違い、「どの日本語が適切か選ぶのに迷った」「英語にこだわると、変な日本文になってしまう」という意見が続出した。

 優れた翻訳のおかげで私たちは外国語の本も日本語で書かれた本のように読める。「登場人物の新たな一面を知ることができた」「まるで舞台を見ているようにイメージできた」と『呪いの子』の感想を自由に語り合えるのも松岡さんが原書に真剣に向き合い、丁寧に翻訳してくれたからだ。だからこそ、松岡さんがどう翻訳しているのか、もっと知りたくなる。

 松岡さんはベテランの英語通訳者だったが、翻訳は「ハリー・ポッター」が初めて。「第1作から第7作まで読むと、私の成長が分かります」と笑う。背水の陣で取り組んだ第1作の原書は、表紙を失い、紙もボロボロになった。だが、著者のJ・K・ローリングは感激し、「I have never seen a book in this condition. I love it!!」と松岡さんの原書にサインしてくれたという。

 「翻訳は一人ひとりアプローチ法が違い、とても孤独な作業です。大切なのはとことん読み込み、調べ尽くし、この翻訳しかないと確信できるまでこだわること。どうしたら大勢の読者に手にとってもらえるか、面白いと思ってもらえるか、翻訳家は全力を尽くしています。みなさんも翻訳する機会があれば、挑戦してみてください」

(ライター・角田奈穂子 写真家・吉永考宏)


読書会を終えて

 海老名ありささん(高1)
 「英語のグループに参加し、言語で違う表現について語り合えました」

 伏木僚志(ふせぎりょうじ)さん(高3)
 「留学を決意しました。英語表現を現地で学びたいです」

 松岡さん
 「仲がいいからなのか、『呪いの子』のテーマである親子の葛藤の話題が少なくて驚きました。
 私は出版人として今後もいい本を出していきたい。興味を持って、いろいろな本を読んで欲しいです」


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