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10代、こんな本に出会った 時代を読む この3冊 キャンパス発 気になる新刊 読書クラブ通信 ひとりごと

 

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時代を読むこの3冊

【相手の国、知ることから】 池田清彦

池田清彦

 多くの国民の反対を押し切って、政府与党は憲法解釈変更の閣議決定を行ったが、戦争や紛争の当事国になるのは、いつの時代でも不幸なことだ。戦争に突入する最も大きな原因は、相手国は不正だという互いの思い込みにある。他国の政治システム、文化、宗教などを理解すれば、この思い込みは多少とも緩和されるだろう。

 丹羽宇一郎『中国の大問題』(PHP新書)は、現代中国の持つ様々な問題点を指摘しながら、日本は中国とどう付き合ったらよいかを述べた好著である。商社マンとして30年、中国大使として2年半、つぶさに中国を見つめた著者の意見は傾聴すべき提言に満ちている。

 中国は人口14億の巨大市場である。日中関係が冷え込んでいる間に市場はドイツなどの他国に席巻されてしまうのではないか。それは日本の国益に反するとの意見はもっともだ。確かに中国は都市と農村の格差、少数民族問題、領土拡張主義など、多くの問題を抱えている。だからと言って付き合わないわけにはいかない。「国益とは国民が幸せになることだ。戦争で国民が幸せになったためしはない」「残念ながら、そういった考えを理解できない日本人が増えてきたと思う」との著者のコトバをかみ締めてほしい。

 日本人にとって中国よりミステリアスなのはイスラムであろう。宮田律『日本人として知っておきたい 世界を動かす現代イスラム』(徳間書店)はイスラムの文化や習慣・宗教を初学者にも分かりやすく解説したものだ。我々には理解し難い風習にも歴史的な根拠があることが分かる。

 日本人に理解しがたいと言えば、神聖ローマ帝国を統べていたハプスブルク家の心臓埋葬(心臓と残りの遺体を別々に埋葬すること)はその最たるものだろう。養老孟司『身体巡礼「ドイツ・オーストリア・チェコ編」』(新潮社)は心臓埋葬を軸に、ヨーロッパの墓地について考えた含蓄にあふれたエッセーだ。死者に向き合う仕方は文化によって異なるが、そこには人類共通の普遍も隠されている。当たり前だよね。生きてる人はすべて死ぬのだから。

(早稲田大学教授〈生物学〉)


中国の大問題

中国の大問題
丹羽宇一郎
[出版社]PHP新書
[価 格]864円

日本人として知っておきたい 世界を動かす現代イスラム

日本人として知っておきたい
世界を動かす現代イスラム

宮田律
[出版社]徳間書店
[価 格]1,404円


身体巡礼「ドイツ・オーストリア・チェコ編」

身体巡礼「ドイツ・オーストリア・チェコ編」
養老孟司
[出版社]新潮社
[価 格]1,620円


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