ともに考え、ともにつくる インタビュー(ネスレ日本 高岡浩三社長)
はじめに

 さまざまな分野で活躍する方々を朝日新聞社の渡辺雅隆社長が訪ねる連載「ともに考え、ともにつくる インタビュー」の第13回は、ネスレ日本の高岡浩三社長にご登場いただきました。キットカットなどのマーケティング戦略で成果をあげ続けるネスレ日本が掲げる「顧客の問題解決」とは――。高岡社長にじっくりうかがいました。


▲このページのTOPへ


 

【ともに考え、ともにつくる インタビュー】
キットカットの課題解決 お客様に教えてもらった
( ネスレ日本・高岡浩三社長×朝日新聞社・渡辺雅隆社長 )


▼ ネスレ日本・高岡浩三社長 のプロフィールはこちら

 

渡辺雅隆社長(以下、渡辺) 過去のインタビューで「人生の締め切りは42歳」とおっしゃっていました。20代、30代は、どう過ごしたのですか。


高岡浩三社長(以下、高岡)  父と祖父が42歳で亡くなっていたので、その年齢をゴールに定めていたことは、若干ほかの人と違っていたかもしれません。でも異質な人間ではなかったはず。転機は30歳。部長職を与えられ、スイスの本社とやりとりをするようになりました。そこで、日本人なら当たり前に思っていたことを「なぜ」と問われても、ほとんど答えられなかったんです。


渡辺  どんな質問だったのですか。


ネスレ日本・高岡浩三社長

高岡  CEO(最高経営責任者)になってからの例ですと、「日本は先進国なのに、なぜ400以上もスーパーマーケットのリージョナル・チェーン(特定地域に店舗展開するチェーン店)があるのか」という問いがありました。他の先進国では数社で8~9割のシェアを占めるケースが多い。私だけでなく、営業本部も答えられない。しかし日本人として、答えられないのはまずいなと。ほかの外資系企業で働く日本人も「いや、日本だから……」と、お茶を濁すことが多いそうです。深く考える人はなかなかいない。即答できなくても、できるだけ考えて。物事の本質を考えるようになったのは、今思うと本当によかったと思います。



渡辺  どうやって答えを出したんですか。


高岡  4、5年悩んだある日、「秘密のケンミンSHOW」という番組にヒントを見つけたんです。日本は小さな国なのに、季節で食べるものが地域によって違う。そこで生鮮食品に目をつけました。日本のスーパーの売り上げの半分は生鮮食品。生鮮食品は地域ごと、季節ごとに求められる。そうすると、地域ごとに展開しないとカバーできないんです。


渡辺  アメリカのスーパーは大きな肉のかたまりを冷凍で売るイメージですね。


高岡  生鮮食品の取り扱いが多いことは、非常に特殊な日本の事情ですよね。マーケティング、あるいはイノベーションの基本は「顧客が気づいていない課題の発見」ですが、じっくり深く考える能力がないと、課題を見つけることはできません。


渡辺  時間をつくるのも一苦労です。社員の考える時間が少ないこともかつて指摘されていました。社長として、どんな手を打ったんですか。


高岡  まず自分と、自分の周りからです。ミーティングは、ほとんど口頭でやろう。プレゼンテーション資料は3枚まで、というルールをつくりました。口頭なら30秒ですむことを、膨大な資料をつくって長々と説明することで何時間も無駄になる。トップとしてそれを変えたかったんです。


渡辺  朝日新聞社の役員会に出てくる資料も、文章を書くのが本業の人が多いせいか長いものが目立ち、改善を図っています。


高岡  フォーマットもそろえました。上か下に、言いたいことを2行くらいで記載する。あまり説明しなくても言いたいことがわかる仕掛けです。文章があってチャートがあって数字が細かく記載されると、何をいいたいのかわかりませんから。


▲このページのTOPへ


 

Have a breakの意味、きっかけは九州からの報告

朝日新聞社・渡辺雅隆社長

渡辺  捻出した時間を、課題を見つける時間にあてることが大切ですね。キットカットを受験生応援に絡めたのも一つの課題解決でした。


高岡  キットカットは、ネスレ本社発の「Have a break, have a KITKAT.」というブランドメッセージがすでに浸透していました。しかし、日本における意味づけを説明できないまま使っていた。「Have a break」の日本における意味、この疑問にぶち当たったときに、ちょうど九州の支社長からの報告があったんです。九州では毎年1、2月に売り上げが大きい。疑問に思ってお客様に聞いたら、「きっと勝つとぉ!」に聞こえるから、と。


渡辺  この時期に、こぞって買われますよね。


高岡  受験生や家族にとってのストレス解放になっていた。そうしてキットカットの受験生応援キャンペーンが生まれました。私たちはおいしいものの需要ぐらいに考えていたけれど、お客様には感情としての課題解決があったんです。


渡辺  キットカットのマーケティングでは、ショートムービーも使われています。とてもクオリティーが高い映像で、感服しました。


高岡  昨年10月に、永田琴監督に制作してもらったショートムービーをWeb映画館「ネスレシアター」で無料公開しました。台湾の青年が主人公で、劇中ではキットカットが小道具として登場します。台湾の映画祭にも出品されました。


渡辺  アジアで人気を集めているそうですね。


高岡  はい。広告出稿もしています。しかし、新商品なら広告効果はあるものの、既存の商品では売り上げにつながりにくい時代になってきました。そこで国境のないインターネットです。こういうショートムービーを活用すれば、日本のキットカットを世界のキットカットにできるのではないか。ショートムービーは、2013年から広告の代わりにつくり始めました。様々な言語で字幕をつけて。


渡辺  広告費を出してもらう立場なので、きつい話です。ただ、広告出稿する企業のニーズについては、しっかり考えていかないといけません。


高岡  内輪の話をしますと、当時の本社の社長が「なぜキットカットの広告は世界で100種類もあるのか」と机をたたいたことがあったんです。確かにもったいない話です。それを解決するために、全世界の人が見られるショートムービーというやり方を考えた、という側面もあります。
 利害関係のない人がいうことは信用されますが、つくっている人が宣伝しても信用されない。広告の限界ですね。だから私たちも、いかに広告に見せないか、というクリエーティビティが必要になってくるんです。


ネスレ日本・高岡浩三社長×朝日新聞社・渡辺雅隆社長

▲このページのTOPへ


 

ビジネスと関係ない点からアイデアを膨らませる

渡辺  ネット出店などのeコマース(電子商取引)にも力を入れていらっしゃいます。


高岡  私が社長に就任した2010年から本格的にシフトしました。日本だけでなく世界的に見ても、製造小売業というビジネスモデルしか成り立たなくなっています。単なるメーカー、単なる小売業では立ち行かない。ユニクロやニトリもそうですし、コンビニもプライベートブランドに力を入れているので、製造小売業のようなものです。しかし、自分で自分の商品を売ろうとすると、小売業から反発が強いので、誰もやりたがらない。


渡辺  この課題は、どう解決しましたか。


高岡  既存の小売業と競合しなければいいんだ、と。そこで思いついたのが、ネスカフェ アンバサダーです。職場にコーヒーマシンを無料貸与して、アンバサダーと呼ばれる職場代表者が専用のコーヒーカートリッジを定期購入。1杯約30円の代金を同僚から回収する仕組みです。これは消費が家の外なので、家庭の消費を対象にするスーパーとは競合しません。


渡辺  朝日新聞デジタルもスタート当初は、紙を売る新聞販売店から競合相手と思われました。でも、実は競合しないんですよね。


高岡  似ていますね。さらに面白かったのは家電量販店です。当初コーヒーマシンの売れ行きがよくなかったのでテレビショッピングを仕掛けたんです。うちの営業も猛反対。お店からは猛反発。一軒、一軒説明して。怒ってイスを蹴った人もいました。でも、テレビショッピングで電話がつながらないくらいに注文が来た後、相乗効果で家電量販店の売り上げも3倍くらいに伸びました。


渡辺  新しいことをやろうとすると不安要素は多く、やらない理由はいくらでも出てきます。


高岡  はい。でも解決方法がそれしかなかったら、反対を押し切ってでも遂行する。それはトップの責任だと思っています。


渡辺  高岡さんが大事にしている課題解決。高齢者の問題についても取り組まれていますね。


高岡  今は、日本の世帯の3分の2以上が一人暮らし・二人暮らしになりました。すると、外食も増え、家庭内消費が減る。コーヒーも家で飲まなくなっていく。高齢者の単身世帯も増える。この課題は、一見うちのビジネスと関係ないように見えます。そこで、モノがネットでつながるIoT化で、離れていてもコーヒーマシンの使用状況を確認できるようにしたんです。


渡辺  通信機能を持ったコーヒーマシンですね。


高岡  発売2カ月で10万台ほど売れました。家族の安否確認にも使われます。携帯電話が普及しても、離れて暮らす家族が頻繁に連絡をとるかというと、そうでもない。そういう問題を解決することができるんです。


渡辺  健康事業にも注力していますね。


高岡  栄養成分などが入った抹茶やミルクのカプセルを定期購入してもらうサービス「ネスレ ウェルネス アンバサダー」を17年に始めました。マシンを無料で貸し出し、食事分析の結果などを参考に、製品の提案をしています。


渡辺  サプリメントって、知識が不十分なまま何となく買ってしまいますよね。


高岡  海外と比べると、日本はサプリメント後進国です。ビタミン不足で起こる脚気など、栄養のバランスが悪くて病気になるケースはたくさんあります。海外では医療費が高いので、先にサプリメントをとります。日本ではまず病院に行って検査して、それからビタミンB1の医薬品が処方される。個人の体質や生活習慣によって必要な栄養素は違うので、それを提案することで、医療費の抑制につなげたいと考えています。
 高齢者の問題もそうですが、一見ビジネスに関係なさそうな課題から、私たちがどんな解決ができるか考えないといけません。商品を考えることから始めると、解決のアイデアが出てきません。


ネスレ日本とeコマース

▲このページのTOPへ


 

社内発イノベーション どの部門にも顧客はいる

渡辺  社員のアイデアを募るイノベーションアワードも行われています。応募件数はどのぐらいですか。


高岡  スタートの11年は79件です。今は年間5千件にのぼります。社員は約2500人なので、平均すると一人2件応募していることになります。


渡辺  すごい数ですね。


高岡  数は増やせましたが、質がこれからの課題です。単なるアイデアコンテストではなく、イノベーションのためのトレーニングです。当然人事評価の対象にもなります。営業ならお客様、人事なら社員……。どの部門にも顧客はいます。顧客の新しい現実と課題、その解決策を考える。仮説を考えたら検証する。失敗したら再考してやり直す。これを繰り返して、小さな成功でもいいから報告してほしいとお願いしています。大賞の案件は、会社全体の戦略にするというルールです。


渡辺  イノベーションアワードで生まれた事業はどんなものがありますか。


高岡  トースターで焼いて食べる「焼きキットカット」や、高級志向の「キットカット ショコラトリー」などです。阪急・阪神の駅に展開している「ネスカフェ スタンド」も大賞でした。駅構内は人通りが多いのでコーヒーが売れそうですが、実は売れ行きがよくない。空調がきいているから需要がない。ところがホームになると、冬は寒い夏は暑い。電車を待っている間に、コーヒーを飲みたくなるんですね。往来の数だけでなく、課題を見つけたからこそ出てきたイノベーションです。


渡辺  イノベーションを起こす力を身につけるのはたいへんです。育成の前段階の、採用のあり方も変えていますね。


高岡  国内ではかなり早い段階に一括採用をやめました。インターンシップからの採用もしています。それから高齢者の活用。今、若い労働者の数は減っていますが、元気な高齢者の数は増えている。別の企業を卒業した方々を雇用することに取り組んでいます。


渡辺  変化していく日本の人口動態を意識しているのでしょうか。


高岡  日本の人口ピラミッドが逆三角形になるなら、会社も対応する必要があると考えています。実績がわかっているベテランを再雇用すれば、トレーニングなしで即戦力になります。しかも、企業年金、厚生年金の積立金もいらない。工場は地方にあるので、Uターンで帰って来る人を募集します。逆に若い人に対しては、将来の幹部になるためにできるだけ投資する。10年、15年後のネスレ日本は、逆三角形になっていると思います。


渡辺  社会の課題解決のために、何ができるのか。世界の企業が考えはじめていますね。


高岡  スイスの本社のピーター・ブラベック名誉会長がCreating Shared Value(CSV=共通価値の創造)という考えを示しました。これまでのCSR(Corporate Social Responsibility)は、慈善事業と企業戦略が必ずしも結びついていない。しかし、企業がもうからなくなると事業をやめたり、特定の分野に偏ったりという不公平感が生まれたりしました。CSVは事業を通じて社会的課題を解決する。それは自分の企業の存続にてらして、持続可能でなければなりません。それが今のSDGsにつながり、世界中の企業が同じ方向をめざすようになりました。


渡辺  朝日新聞社も同様です。新聞には課題発見のツールとしての役割がありますが、展覧会や高校野球などのイベントや様々なサービスも、暮らしを豊かにして、明日をもっとよくする助けになればと考えています。


高岡  目標や課題には共通するところが多々あります。新聞社は顧客情報が豊富で、地域の拠点も多いですね。様々な課題解決の可能性をもっていると思います。顧客の課題解決は自社だけではできないことが多い。ネスレ日本も異業種との提携を進めています。どういう業種と力を合わせれば課題解決できるかを探らなくてはいけないと考えています。


顧客の問題解決プロセス

▲このページのTOPへ


 

  プロフィール

高岡浩三(たかおか・こうぞう)氏 高岡浩三(たかおか・こうぞう)氏 プロフィール
 たかおか・こうぞう
 1960年生まれ、大阪府出身。神戸大学経営学部卒業後、83年ネスレ日本入社、営業部門からスタート。88年ネスレUSA。30歳で最年少の部長に。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長。10年、生え抜きの日本人として初の代表取締役社長兼CEOに。12年、ベストドレッサー賞受賞。



▲このページのTOPへ


 

  ネスレ日本

 スイスに本社がある売上高世界最大級の食品メーカー・ネスレの日本法人。1913年創業、33年設立。本社は神戸市。コーヒーを主力商品とし、菓子やペットフードも取り扱う。社員は約2500人(18年12月現在、グループ会社社員含む)。


 

インタビューページ トップへ
これまでのインタビューはこちら