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この記事を手がかりに 2014/02/24
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羽生、金色の勇気 震災で折れた心、支えられて再起

2014年2月16日付 朝刊1面

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フラワーセレモニーで観客の声援に応える羽生結弦=山本裕之撮影

 第8日の14日、フィギュアスケート男子で羽生結弦(はにゅうゆづる)(19)=ANA=が、日本勢に今大会初の金メダルをもたらした。冬季五輪の日本勢では、2006年トリノ大会フィギュアスケート女子の荒川静香以来で、通算10個目となった。町田樹(たつき)(関大)は5位、高橋大輔(関大大学院)は6位だった。

 羽生結弦には、こだわりがあった。「4回転サルコーに挑む」。それは、このジャンプが東日本大震災後の希望だったからだ。成功の確率は低かったが、フリーの最初に組み込んだ。

 2011年3月11日。羽生は生まれ育った仙台市での練習中、突然の揺れに襲われた。避難所で家族4人雑魚寝し、暗闇で余震と寒さに震えた。「そろそろ練習しなきゃね」。10日ほど経って母にそっと背中を押された。かつてのコーチを頼って横浜市へ。仙台を離れる時、涙が流れた。

 仙台を震度6強の余震が襲った4月7日。横浜のリンクで揺れを感じた羽生は、心が折れた。「先生、もう疲れたよ」「こんな状態の中で続けていいのかな」。弱音を漏らした。

 その2日後、神戸市であったアイスショーに出演。万雷の拍手に包まれ、思った。「神戸も震災を経験し、復興した。仙台も復興できる」。勇気がわいた。

 以来、各地でのショーに出演することで練習の代わりにした。

 11年夏、青森県八戸市。「跳んでみせてくれよっ」。ジャンプコーチの田中総司さん(31)に促され、助走に入る。靴の刃で氷を削って跳び上がる「ザッ」という音、着氷の「トン」という音が、静寂の中、響いた。人生初の4回転サルコーを決めた瞬間だった。「先生! サルコー、下りたよ」。羽生がこんな笑顔を見せたのは、震災後初めてだった。

 約60回のショーで訪れた全国のリンクでは、誰も使用料を受け取らなかった。田中さんは「みんなに練習場を提供してもらい、感謝で、ショーでの集中力も、練習で滑る量も増えた」。昨年12月、拠点としていた仙台のリンクを訪れた羽生は、ボードに「サルコーの確率が上がってきました。頑張ります」と書き残した。

 迎えたフリー。4回転サルコーを跳んだが、転倒した。「金メダルを取れてうれしいが、能力を発揮できなかった悔しさがある」。その伸びしろこそが、さらなる飛躍への希望だ。

 「今まで、復興の役に立てるのかと無力感を感じていた。五輪の金メダリストになり、これからがスタート。何か出来ることがあると思う」

 (後藤太輔、吉永岳央)



羽生、王子から王者へ 苦手のジャンプ、「科学」で克服

2014年2月16日付 朝刊20面

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羽生結弦の見せ場のビールマンスピン=山本裕之撮影

 羽生結弦はそれを「発明ノート」と呼ぶ。

 毎日のように、練習で気になったことや思いついたことを殴り書きする。スピード、タイミング、感覚……。自分が試してみて良かったことと悪かったこと、疑問点などが記されている。

 金メダルを決めたフリー。そうやって身につけてきたジャンプの中の一つに救われた。

 後半に跳ぶ、トリプルアクセル(3回転半)からの連続ジャンプ二つ。やや体勢を崩したものもあったが、いずれも成功した。一つで16・29点、もう一つで11・07点を稼いだ。フリーは三つのミスをしてもなお、技術点は89・66点。24選手中最高だった。

 「発明ノート」は就寝前、布団に入ってイメージトレーニングをしている最中にひらめき、起き上がって書くこともある。「眠い、と思いながら机に向かって、ガーッと書いて、パタッと寝る。見せられるほど奇麗な字では書いてないです」と羽生。翌日リンクに立った時、ひらめきを試し、その成果をまた書き込む。

 羽生は同世代の選手よりも、3回転ジャンプを跳べるようになるのが遅かった。本人も「本当にジャンプは苦手でした」。大会で負けては号泣した。

 悔しくて、上手な人のジャンプを研究した。助走の軌道は? 跳び上がるベクトルは? ばらばらにしたパーツを組み合わせては試した。中学や高校の成績はオール5。中でも、数学や力学は好きな分野だ。「ジャンプを科学しているわけではないですが、理論的に感覚と常識的なことを合わせて、スピードの関係、タイミングをノートに書いた」

 今、「トリプルアクセルは、しばらく休んでいてもすぐに跳べる」絶対的なジャンプになった。今大会は、正確無比なジャンプを三つ決めたショートプログラムも、フリーも1位。「あれだけジャンプを出来たことが大きかった。やはりそれが僕の今回の勝因かなって思っています」

(後藤太輔)

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