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クマ被害、全国で100人超

10月20日付朝刊1ページ 1総合

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 全国各地でクマの出没が相次いでいる。各都道府県を通じた18日までの朝日新聞のまとめでは、今年はクマに襲われ4人が死亡、100人がけがをした。被害者数は昨年のほぼ同時期までの約1・6倍。一方、クマの方も約1・4倍の2399頭が捕獲・駆除された(写真は和歌山県で10日に捕獲され、山に戻されたツキノワグマ=同県提供)。=2面に「時時刻刻」

 猛暑によるえさ不足や里山の荒廃などが原因として指摘されているが、深刻になっているのが猟師の減少だ。猟師の活動が少なくなることで生息域が広がり、数の増加につながっている。(小寺陽一郎)


(時時刻刻)減る猟師・増える獣、限界の山 捕獲「仲間そろわん」 銃規制も影響

10月20日付朝刊2ページ 2総合

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 全国各地の山林から、猟師の姿が次々と消えていく。1970年代に40万人を超えていた銃を扱う猟友会員は、いま10万人を割る。銃への規制強化が拍車をかけており、猟友会や自治体はようやく対策に動き始めた。一方、シカやイノシシなどによる農作物被害に悩む知事や市長の中には、自衛隊に応援を求めたり、オオカミの導入を検討したりするところも出てきた。

 富山県魚津市のゴルフ練習場。13日午前10時半ごろ、周辺をパトカーや消防車が囲み、通行止めになった。前日に男性2人を襲ったクマの捕獲作戦が始まろうとしていた。「裏手の雑木林にクマが潜んでいる」との通報から、すでに3時間がたっていた。

 猟友会員5人が爆竹を鳴らし、クマを追い込もうとする。猟銃を構えるが雑木林にクマの気配はない。50分後、この日の捕獲作戦は空振りのまま終わり、19日まで捕まっていない。

 「仲間がそろわん間に逃げられてしもた」

 猟友会員の松本好雄さん(75)は嘆いた。本来は8〜10人は必要なケース。人手が集まらず5人で捕獲に臨んだが、遅かった。集まった5人は60代以上の農家や漁師だ。市内に約30人の猟友会員がいるが、平日に動けるのは自営業者らに限られる。このため9人の市職員も狩猟免許を新たに取得し、捕獲を手伝う。

 猟師が減った背景には、防寒具としての需要が減って毛皮が高く売れなくなったこと、レジャーの多様化、鳥獣保護機運の高まりによる狩猟制限などがある。

 そこに拍車をかけているのが、07年の長崎県での散弾銃乱射事件を受け、昨年末に施行された改正銃刀法だ。

 猟銃を扱うには、都道府県の狩猟免許試験に合格し、公安委員会の鉄砲所持許可を取る必要がある。改正法では、実包1発ごとに使用状況を細かく帳簿につけることなどが義務化された。

 さらに3年に1度の免許更新にあたって、精神疾患がない▽認知症でない▽家庭内に銃を悪用するおそれがある人がいない、などが条件となった。手続きが煩雑になったことで、全員が更新期を迎える2012年に向け会員は急激に減ると見る関係者は多い。

 伝統的な狩猟文化が残る秋田県上小阿仁村の佐藤良蔵さん(85)は昨年、半世紀以上背負った猟銃を警察に返納した。「猟銃を担いで山を歩くのがしんどくなったし、銃を持つ手続きもずっと厳しくなった。もう疲れた」と話す。

 福島県の会社役員羽山(はやま)武男さん(67)も「年をとり、自分もいつ人を傷つけるか分からないと考え、潮時と思った」と免許を返納した。

 「この先2年で、会員数は半分になってしまうだろう」。大日本猟友会の佐々木洋平会長は危機感を隠さない。同会は先月、銃刀法の規制緩和をめざして81年の歴史で初めて政治団体「大日本猟友政治連盟」を設立した。

 佐々木氏は先の銃刀法改正について「鳥獣被害に対抗する銃のニーズという論点がなかった」と指摘。当面は各党に陳情の窓口となる議員連盟の立ち上げを求めていく。

 自治体も対策に乗り出した。朝日新聞の調べでは、この3年間に22府県が狩猟免許試験の回数を増やした。長野県辰野町は昨年、狩猟を疑似体験できる「シューティングシミュレーター」を導入。富山県南砺市は、休止していた市営のクレー射撃場を復活させた。

 (矢島大輔、伊豆丸展代)

 ●猟に頼らない道、手探り

 東京農工大学の小池伸介助教(保全生態学)によると、シカやイノシシは個体数の増加がはっきりしている一方、クマについては正確な数はわかっていないという。その上で、クマなどが人里に多数出没するようになった理由をこう説明する。

 中山間地域での人の活動が減り、動物とのせめぎあいがなくなったことで鳥獣の分布域が人の生活圏近くまで広がった。猟師が減ったことで鳥獣の数や活動範囲、繁殖活動などに影響を与える「狩猟圧」が低下し、シカやイノシシが増えた。狩猟期に人間に追われた経験のないクマも出てくる。いわゆる「新世代クマ」で、これが人と遭遇している可能性がある――というわけだ。

 ただし、獣を撃つことはあくまでも対症療法に過ぎない。そこに焦点があたるのは、短期的にはほかに有効な対策が見つからないことの裏返しでもある。

 山林と人里の間に緩衝地帯を設けたり、林業を通じて山の環境を整えたりといった対策を検討している自治体もある。小池氏も、狩猟だけに頼るのではなく、野生動物の数や生態の科学的な調査など長期的な対策もあわせて進めていく必要があると指摘している。

 ●自衛隊に手伝い要望 オオカミを放つ案も

 シカやイノシシなどによる農作物被害は昨年度約222億円に上り、8道府県で最高を記録した。

 特産のワサビなどへの被害が深刻化する静岡県の伊豆半島には、約2万頭のシカがひしめく。県は1万頭まで減らそうと年7千頭の捕獲計画を立てているが、昨年度の実績は約5千頭にとどまった。

 川勝平太知事が目を付けたのが陸上自衛隊。「団体行動に慣れた隊員なら猟師の手助けをできないか」と8月の記者会見で表明した。ただ、農作物被害への対応は自衛隊法に根拠がなく、部隊行動は不可能。自衛隊側はいまのところ「有志やOBの休日ボランティアなら検討可能」と県に伝えており、シカを追い込むさくの設置などが想定される。やはり自衛隊に支援を求めた北海道では、鳥獣被害防止特措法を根拠に雪上車を使っての獲物の輸送などを検討中だ。

 一方、オオカミ導入を提唱しているのが、シカやサル、イノシシなどによる年間約2400万円の農作物被害に悩む大分県豊後大野市の橋本祐輔市長だ。絶滅したニホンオオカミに近い種を中国から輸入して山林に放つという計画だ。

 「被害が増えれば農家はやる気を失う。生態系を元に戻すにはオオカミしかない」と橋本市長。米・イエローストン国立公園での先例も支えになっており、農家から「早く導入してほしい」との声が上がる。まだ具体的な動きにつながっておらず、環境省は「外来生物が与える影響は計り知れない」と否定的だ。(後藤遼太、石川瀬里)

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