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(どうする体力低下 子どもとスポーツ第3部:1)便利な世、かけっこの敵

5月20日付朝刊17ページ スポーツ4

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東京都調布市であったミズノスポーツサービスの「運動会必勝塾」。その場でももを上げる練習では、ふらつく子もいた

遠野北小学校の通学路には、学校までの距離を示した看板が立っている=岩手県遠野市

25メートル走、立ち幅跳び、テニスボール投げ、ゴムボールの捕球、まりつき、マット上での前転、平均台上の歩行・走行の7種類の動作を調べた。動作を洗練度に応じて35点満点で点数化。それぞれの集団での平均値を図に示した。対象の幼稚園児は、1985年が計123人、2007年が計154人。

 今月初め、埼玉県所沢市であった「鉄棒教室」を訪ねた。小学1〜3年の7人が、逆上がりを練習していた。「前にボールが浮いてると思って、下から蹴飛ばして!」。指導員が基本を繰り返し教える。

 ただ、それ以前の課題が大きい。ほとんどの子は地面を蹴った直後にダラッと腕が伸びてしまう。腕を曲げて鉄棒を引きつけられず、逆上がりにならない。

 「何かに手でしがみつく、ぶら下がるという動作をする機会がなくて、腕の力が体格に追いつかない」と、ミズノスポーツサービスの川井彩さんは見る。同社は、主に都市部で子ども向けの「スポーツ塾」を展開。自治体からの受託もある。

 東京都目黒区での「かけっこ教室」には、小学生35人が集まった。鬼ごっこのような遊びで体を温めて準備体操へ。片足ずつ屈伸運動を始めた。

 「足首が硬いなあ……」

 体育館の端で子どもの動きを見つめていた川井さんがつぶやいた。見ると、大半の子がひざを曲げたほうの足のかかとが地面につかず浮き上がっている。指導の現場を10年以上経験した川井さんは「トイレが洋式になったりして、しゃがむ姿勢を取ることがほとんどない」と背景を推測する。

 スポーツの家庭教師派遣事業を始めて20年になる“老舗”スポーティーワンの水口高志社長は、「体の動かし方が分からない子どもが多いのを肌で感じる」という。

 立ち幅跳びで腕を振らない。スキップできない。新しい動きをさせるとロボットみたいにぎこちなくなる――。体力低下が叫ばれて以降やや回復傾向にあるとは感じるが、そんな子どもが20年の間に増えた。

 ■自治体、児童に「歩こう」 歩数計配布・車通学途中で下車

 危機感は地方にも広がる。

 徳島県教委は県内の小学5、6年生に歩数計を配っている。きっかけは、文部科学省が実施した2009年度の全国体力調査。小学5年は男子が全国最下位、女子は41位だった。

 車を多用する生活習慣が背景にある。通学も保護者に車で送ってもらったり、スクールバスを使ったり。子どもの歩く機会は減っている。

 徳島県教委は「プラス1000歩チャレンジ」と銘打って歩数増をめざす。歩数計とともに、必要な歩数を記した四国霊場巡りの地図を配る。専用のホームページでは、歩数が札所に達するごとに、運動するご当地キャラを描いたカードがもらえる仕組みだ。ゲーム感覚で歩けるようにした。

 昨年度の全国体力調査では男子が38位、女子は34位に上昇。肥満傾向の子どもの割合も10年度との比較で男子3・3%減、女子は1・5%減となった。県教委体育学校安全課の高原清秀課長は「新しい展開を加えながら、子どもの体力向上をより確かなものにしていきたい」と話す。

 民話の里、岩手県遠野市。遠野北小のスクールバスが校門まで行かない。車通学でも、数百メートル離れた場所で下車して歩くよう学校が指導しているからだ。

 通学路には、あちこちに学校までの距離を示す看板が立つ。例えば「遠野北小学校まで1000m」。歩くことを意識させている。

 「チャレンジ徒歩通学」という取り組みの一環だ。文科省による子どもの体力向上を進める事業として、遠野市が04年に始めた。

 菊池和子校長は「子どもの頃に体を鍛えていないという危機感がある。せめて小学校の6年間だけでも頑張って歩きませんかと呼びかけたい」と話している。

 ■動作の成熟、遅れ

 子どもの体力低下は、文科省の体力・運動能力調査にその一端が表れている。現在の調査方法になった1998年以降をみると、横ばいか向上傾向にはある。だが、体力水準が高かった85年と一昨年を比較すると、7歳男子の50メートル走は10・30秒→10・68秒、9歳女子の立ち幅跳びが1メートル47→1メートル38、11歳男子のボール投げが34・0メートル→29・7メートルなど、あらゆる年齢の大多数の項目で低い水準だ。

 国立スポーツ科学センター研究員の池田達昭さんは、これを身長の大型化を加味してみるべきだと言う。10歳の身長は、一昨年は男子が85年より1・1センチ高い138・8センチ、女子が1・5センチ高い140・3センチ。「本来は、身長に比例して、大きい身体を速く力強く動かす体力も伸びてこなければいけない。身長の伸びに見合った体力が備わっていないのが問題」

 さらに危機的なデータがある。山梨大の中村和彦教授(発育発達学)らが調べた、動作の成熟の遅れだ。

 例えばボール投げは、最初は放り出すだけだが、上達に伴い、体をひねる→足のステップが入る→フォロースルーを使う、と発達段階を踏む。平均台上の移動なら、最初は足元ばかりをみるが、徐々に前を向く。

 七つの基本動作でこうした動きの質を幼稚園児で調べたところ、2007年の年長児は1985年の年少児に近い結果が出た。最近の調査では、小学3、4年が85年の年長児と同レベルという結果も出たという。

 「幼少期にいろんな動きを経験することが減ってしまった」と中村教授は言う。「子ども同士の外遊びがなくなったことや、幼児期から一つのスポーツをさせる競技志向などが背景にある。子どもがそうしたわけではなく、いずれも大人の責任。大人が子どもの発達の可能性を奪っている」

    *

 子どもの体力低下が指摘されて久しい。生活スタイル、住環境、習慣の変化など様々な要因が絡み合う。スポーツ面年間企画「子どもとスポーツ」第3部では、現状と背景を整理しながら対策を探ります。

 (この連載は酒瀬川亮介、辻健治、中小路徹が担当します)

 <体力調査> 文部科学省は、1964年から「体力・運動能力調査」を行っており、一昨年度は6歳から79歳までの男女約6万6千人に実施した。これとは別に、2008年度から小5、中2をより大規模に調べる「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力調査)を始め、昨年度は約42万人が参加した。小中年代では、ともに握力、50メートル走、立ち幅跳びなどをテストする。

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