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(天声人語)消えていく方言

6月2日付朝刊1ページ 1総合

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 歌人にして劇作家、今年が没後30年の寺山修司は方言への思いが深かったようだ。若いころの一首に〈ふるさとの訛(なま)りなくせし友といてモカ珈琲(コーヒー)はかくまでにがし〉がある。故郷の青森と東京が今よりずっと「遠かった」時代である▼歌には、ふるさとの言葉への愛憎が微妙に行き交う。そして標準語がそぎ落としたものへの哀惜が、歌からにじんでくる。共通語では言い換えのきかない方言と訛りは、陰影に富んで、懐が深い▼そうした言葉のいくつかが、東日本大震災の被災地で消えかかっているそうだ。東北大の小林隆教授が調べたら、とりわけ危うい言葉が143語あった。懸念される語は数倍にのぼるという。かねての過疎化に、震災が追い打ちをかけているらしい▼石巻市の「ド(雄牛)」や陸前高田市の「ジップグレ(梅雨)」などが該当する。近代化の中で東北弁は縮こまりがちだった。震災の後、豊かな地域性の証しとして見直されつつある。残す手だてはないものかと思う▼20年ほど前、「街道をゆく」で青森を訪ねた司馬遼太郎が「津軽や南部のことばをきいていると、そのまま詩だとおもうことがある」と書いていた。旅の者の感傷ではあるまい。東北に限らず、ふるさとの言葉は、よく使い込まれた道具のように心を語る▼戦後の列島は均質な金太郎飴(あめ)となった。そして今、グローバル化が席巻する時代である。土地土地にこんもり茂っていた「方言の森」が枯れてしまえば、日本語は何とも平べったくなる。


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